「寝る前にコーヒーを飲んでしまうと寝付けない」。カフェインを含むコーヒーは眠気覚ましをしたい時の頼れる味方だが、ゆっくりと眠りたい時には逆効果となる場合が多い。一見すると相性が悪い「コーヒー」と「睡眠」だが、この2つを掛け合わせた「ネスカフェ 睡眠カフェ」が2019年3月、東京・大井町にオープン。12月4日からは映像や音楽の演出を取り入れた新コースが加わるなど、昼寝や仮眠の環境作りに力を注ぐ。コーヒーが主力製品であるネスレ日本は、なぜ睡眠に特化した施設を運営するのか。
映像や音楽も活用、最高の昼寝環境を目指す「睡眠カフェ」
ネスレは2017年から原宿・銀座で過去3回に渡り睡眠カフェを期間限定でオープン。2019年3月、大井町で初の常時営業店舗をスタートした。同店ではネスカフェのコーヒーを提供するとともに、高級寝具のフランスベッド製のリクライニング機能付きのレザーチェアやベッドで眠ることができる。マットレスや枕は好みの固さを選べ、照明も睡眠に適した明るさ・色をカスタマイズできるIoT照明を使用し、森や川などの自然音で眠りを誘うBGMを用意するなど睡眠に最適な環境作りに力を入れているのが特長だ。
12月4日からは、仮眠向けの「ナップコース」に睡眠や眠気を研究する広島大学の林光緒教授監修の入眠前・起床後にそれぞれ適した映像を投影する新コースを追加。睡眠の前には自然をモチーフにした連続性のある映像を映し出しリラックスをうながし、起床時には青白い月明かりの映像が流れるとともに、利用者の体にも映像が投影され、昼寝後の眠気の軽減を助ける仕組みだ。
カフェイン・デカフェの飲み分けで“睡眠×コーヒー”をアピール
この睡眠カフェをネスレ日本がオープンした背景には、社会問題となっている睡眠不足や睡眠負債に着目し、コーヒーの睡眠への活用法を広く発信したいという狙いがある。
「カフェインがほとんど入っていないカフェインレスコーヒーであれば、就寝前にコーヒーの香りでリラックスしていただき、より質の高い睡眠をとる手助けになります。また、カフェインは20分程度で吸収されますので、カフェインを含むコーヒーを仮眠の前に飲めば、20分の仮眠の後シャキっと目覚めることが期待できます。実は睡眠とコーヒーとは相性がいいということを睡眠カフェを通じて発信していきたい」(ネスレ日本 飲料事業本部・高岡二郎さん)
カフェインを取り除いたデカフェコーヒーの輸入量は2013年の約1347トンから2018年には2637トンと、ここ5年で約2倍に増加(全日本コーヒー協会・デカフェコーヒーの輸入推移による)。同店では睡眠の場を提供すると同時に、日中の仮眠や夜の睡眠においてデカフェ・カフェイン入りコーヒーを飲み分けるライフスタイルを疑似体験してもらうことで、睡眠のためにコーヒーを敬遠してしまいがちな層にもコーヒーを訴求する意図が見える。
予想以上だった「昼寝需要」、睡眠で街づくりに期待
3月のオープン以降、睡眠カフェの利用者数は順調に推移。中でも30分の仮眠が取れるナップコースが人気を集めており、大井町周辺で働く人のほか、近隣住民にも多く利用されているという。
「幅広い年代の方にご利用いただいておりまして、男女比もちょうど半分ぐらいです。働いている方や夜勤明けの方の仮眠で利用されるパターンも多いですが、お子さんをお持ちのお母さんが『誰にも邪魔されないところで昼寝がしたい』ということで来られることもあります。落ち着いて昼寝できるところは町中には意外とないので、しっかりと昼寝ができる環境に対する需要を拾えているのではないかと思います」(ネスレ日本 メディアリレーションズ室・小川直子さん)
同店はネスレがNPOまちづくり大井と協働でコーヒーを活用した街づくりを推進する「コーヒーウエルネスプロジェクト」の一環でもあり、同店では新ナップコース提供に合わせ品川区内に在住・在勤者向けの割引サービスを開始。2019年4月には大井町のシェアオフィス「MICAN」内に「睡眠カフェ サテライト」をオープンしており、地域住民や来訪者に向けた、健康をテーマにした街づくりのシンボルとしても期待がかかる。
近年は昼寝推奨の企業が増えたり、テクノロジーを活用し質の高い睡眠を手助けする「スリープテック」に注目が集まるなど、睡眠が社会全体の関心事となっている。そうした中、誰もが立ち寄れるカフェを切り口にした睡眠へのアプローチは、睡眠ビジネスの新たなモデルケースになるかもしれない。
国分洋平