「美しすぎて食べるのがもったいない」「宝箱にそっとしまって一日中眺めたい」「これは芸術品だ」。こんなコメントが多数寄せられ、2.3万件のリツイートと8.3万件のいいねを獲得し、Twitterでバズった和菓子がある。三納寛之さんが作る「宵花火」だ。若者のユーザーが多いSNSで和菓子がバズるというのは珍しい現象なのだが、彼の和菓子は新作がアップされるたび多くの人に共有されており、いわばバズりの常連である。
この現象の裏には、和菓子の興味の有無に関わらず思わずシェアしたくなるような“新しい和菓子のビジュアル”と、“フリーランスの和菓子職人”として新しい道を切り拓く作者の存在があった。
「『宵花火』は代表作の一つで、一番人気のあるお菓子です。このお菓子を求めて遠くから来てくださる方もいます。夏の夜を彩る大輪の花火の美しさをカラフルな練り切りで表現していて、包みぼかしという技法を用いて中から滲み出るグラデーションが魅力のお菓子ですね」
こう語る三納さんは、“フリーランスの和菓子職人”という珍しい肩書きで活動している。「普通の和菓子屋さんではできないことや、伝えづらい新たな和菓子の魅力を発信できることはフリーランスの魅力。具体的には、海外でのセミナーやデモンストレーション、ファッションショーのパフォーマーとして仕事をしたこともあります」
と、活動内容は、従来の和菓子職人のイメージでは考えられないような幅の広さ。和菓子の世界への入り口となるよう、多方面にアプローチしている。
もはや芸術品!な作品の数々
彼が作る「宵花火」以外のお菓子もまた、個性的で素敵なものばかりだ。
「ひかりの雫」は、琥珀糖と呼ばれる干菓子。宝石のようなキラキラとした見た目に、誰しも心躍らせるだろう。製法上どうしても糖度が高く甘いものになる干菓子だが、そこにオーガニックレモンの酸味とライムの香りをつけ爽やかな仕上がりに。ピンクペッパーの爽やかで刺激のある味わいが口の中に広がる。
また「瑞翔彩花」は「お伊勢さん菓子博2017」に出品し、優秀工芸賞を受賞した工芸菓子の作品。砂糖や米粉、餡でできた生地で、白鷹、松、牡丹が表されている。高さ120cm幅80cmという規格外の大きさと、精巧さに驚く。
「蜜柑」はこの冬イチオシの作品で、“練り切り”製の細工菓子。みかんの皮を剥くと中から“練り切り”製の果肉が出てくる仕掛けが施された、遊び心溢れる作品。皮もヘタも全て“練り切り”なので、すべて食べられる。実についた白い筋がやけにリアルで、何度も眺めてしまう。
和菓子を知らない人に魅力を届けたい
上記の「蜜柑」や、「さくらんぼ」などは、和菓子のモチーフとしては馴染みのないもののように感じる。
「茶道などのお茶席でのお菓子も伝統文化として大切ですが、SNSで発表しているお菓子の多くは一般の方向けに作っています。現代の生活に合う、一般の方が新たな和菓子の魅力に気づいて食べたくなり、食べたら笑みがこぼれるものを、と考えてます。私は今の時代に合わせて若い方が喜ぶものを常に考え、取り入れていきます」
それが功を奏してか、SNSで作品を紹介すると瞬く間に拡散され、全国に彼のファンができた。特に若い層の客が増えたという。イベントや不定期で開催されるネット注文も、大盛況だ。
「InstagramやTwitterで僕の事を知って応援してくださる方が全国にいるので、皆さんにお会いしたり僕のお菓子をお届けできるよう活躍の場を増やして行きたいです。そしてやがては和菓子職人の新しい生き方の一つになるような道つくれたらと思います」
今まで和菓子を知らなかった層を味方につけるような商品と、様々な角度からのアプローチ。新しい和菓子職人のあり方を模索し続ける彼の活躍から目が離せない。
丹羽由芽