動物写真家の岩合光昭がライフワークとして撮り続けたネコの写真の中から、こねこを集めた写真展「こねこ」が大阪・なんばスカイオで開催中だ。ネコが魅せる一瞬の表情や仕草をカメラに収めてきた岩合にインタビューし、ネコの尽きない魅力や、写真を通して伝えたい事などを伺った。
ネコの魅力はわからない所。へそ曲がりなネコほど面白い
NHK BSプレミアムの「岩合光昭の世界ネコ歩き」など、人気番組で知られる岩合。世界中でネコを撮影してきた岩合だが、各地でどのようにしてネコと出会うのだろうか。
「テレビ番組の取材と個人の取材で探し方が違います。テレビ番組だと現地におられるコーディネーターの方のつてやネットを通して猫を探していただきます。だからかなりの確率でネコに出会えます。ですが個人で行った場合は、まず高い所から街を見下ろしてネコがいそうな所に検討をつけます。ネコは丘の上だとか、道が行き止まりになる所に意外と見つかることが多いので、そういう場所から探し始めます。車だと見つからないので、歩いて見つけます」
実際にネコに出会ったら次は撮影だが、こちらから近づくのではなく、できる限りネコから近づいてくる方法を考えるのだそう。「エサをやってしまうと、エサのことしか考えなくなってしまうので、できるだけ他の方法をとります。相手に興味を持たせるため、しゃがむとか這いつくばるとか。ネコと同じ高さに自分の目やカメラを持っていって興味を抱かせる。すると『一体何だろう』と近づいてきてくれます」と撮影のポイントを教えてくれた。
しかし、岩合でも撮影できるのは全体の半分くらいなのだという。「最初からこちらとの距離を保ってじっと見ているようなネコは、なかなか手強いネコだと思うんですよね。そういう時はあっさり『モデルになりたくないんだね』って他のネコを探します。無理強いしてもネコは絶対いうことを聞いてくれないので、その点は短時間で見極めます。ネコの動きや表情を見ればなんとなくわかります」とネコの気持ちを感じとりながらの撮影をしているという。
そんなネコの様々な面を知る岩合が感じるネコの魅力を尋ねると「やっぱりわからない所が一番魅力ですね。わからないからもっと知ろうと思うので。僕流な言い方をすると、へそ曲がりなネコほど面白いと思います。素直で見たままのネコも撮影させてもらいますけど、 どちらかというと変わってるネコというか、このネコちょっと面白いと感じさせるネコの方が被写体としては魅力です」と長いキャリアの中でも、未だにネコの魅力は尽きないのだと明かす。
こねことの偶然の出会いに「思わずかわいいを連発してしまいました」
ネコを街で見かけることは珍しくはないが、こねこに出会う機会は貴重だ。それは岩合にとっても同じことだが、訪れたベルギーで思いがけない出会いがあったという。
「最初に予定していた若い女性が犬と猫と一緒にいるという家に行ったんですが、彼女が寝坊していて呼び鈴を押しても出てこなくて。一匹のネコが外を歩いていたので周辺にもネコが絶対いるはずだと思って、スタッフ一同散らばって探し始めたんです。探していると集合住宅からおばあちゃんが出てきて『あなたさっきからきょろきょろしてるけど何探してるの?』って聞かれたので説明すると『早く言いなさいよ、うちにたくさんいるわよ』と言われたんです。偶然なんですよ!ただおばあちゃんは孫と町のお祭りにいかなきゃいけないそうで『家の地図を描いてあげるからそこに行きなさい。私の別れた旦那が鍵を持って待ってるから。連絡しとくから』と言われて行ったら、本当に男性が1人待っていて、鍵束でドアを開けてくれたんです。そしたらこねこがわーっと出てきて。思わずかわいいを連発してしまいましたね」
そこでは半日ほどかけて撮影を行ったと岩合は笑顔で当時を振り返る。そのこねこ達の写真も今回の展示会で見ることが可能だ。
岩合はこねこも大人のネコも共通するかわいさがあるといい、「意識するんですよね、私は、僕はかわいいでしょって」と顔をほころばせながら話す。「机の端に座っていたネコを撮影していたら一生懸命毛づくろいを始めてくれたんですけど、いつの間にか姿が消えたんですよ。毛づくろいで体をそらすので重心がずれたんだと思うんですけど、後ろにひっくり返って落ちてしまって。そういうのが本当に僕としては最高ですね」と思わず笑ってしまうようなエピソードも明かしてくれた。
世界中どこに行ってもネコはネコ。そこが素晴らしい。
40年以上に渡り身近なネコを撮影してきた岩合だが、意外にもネコとの最初の出会いは遅かったと語る。
「道を横断するネコは見てたんですけれど、手の届く距離で見たのは高校生のときです。友達の家に二十数匹ネコがいて、友達が肩にかわいいネコを抱えてきてくれて肩越しに見せてくれました。三毛猫だったんですが、一瞬で目頭が熱くなって泣いてしまったんです。高校生ですし、ネコ見て泣いたなんて恥ずかしいじゃないですか。友達が振り返る前に涙を拭いてごまかしました。美しさとまっすぐ見つめてくる目で一瞬にしてやられたという感じです。こんな動物がいるのかぐらいにびっくりしましたね。その日からずっと、特にテレビ番組を持つようになって、毎日ネコのことを考えてます」と笑う。
外で出会うネコを主に撮影している岩合は、近年室内飼いが推奨されているためか、だんだんと出会える数は減ってきたと感じているそうだ。人間の社会や環境が変化する中、ネコも変化しているのか尋ねると「結局ネコって人がいないと生きていけないので、人が優しいか優しくないかになってきます。個人的な意見ですけれど、時々ネコのいうことを聞いてあげてと言いたくなることがあります。人は残念ながらネコには絶対なれないので。僕もいつも撮影しながら、ネコの意見をとても大切にしているつもりです。すごく単純に言うと、暑い時は涼しい所にいて寒い時は温かい所にいます。その感覚がとても大切で、そんな鋭い感覚を僕たちはどこかに置き忘れてしまったような気がします。それを僕はネコを通して思い出すんです。皆さんにも感じていただきたいと思いますね」と人とネコの関係について思いを語った。
一方で、もちろん変わらないこともあるといい、それは「どんな所に行ってもネコはネコです。世界中どこに行ってもネコはネコの大きさですし。犬は大きくなったり小さくなったり、人が作ってしまう所はあるんですけど、ネコはなかなかできないらしくて。それは人が変えられない所だからこその素晴らしさだと思います。顔見ても頑として言うこと聞かないみたいな顔してますけどね」と世界中で見続けたネコの魅力を語る。
岩合の写真は思わず「かわいい」と言ってしまう、引込まれるような写真ばかりだが、岩合自身も撮影者としてネコをかわいいと思うのは重要だと言う。その理由を「僕が感じなければきっと見てくださる皆さんに通じないと思うんです」と語り、「それぞれ人の好みってあると思うんです。だからご覧になっていただいたときに、1枚を選んでほしいと思っています。どうしてその写真が気になったか、かわいいでも、綺麗でもいいし。なんでもいいから自分の感じ方を大切に家に持って帰って『あの写真はこうだったよね』という写真を提供できたらいいなと思います」と写真を見る人へ、見たときの自身の感情を大切にしてほしいと言う。
最後に、開催中の写真展のために大阪へ訪れた岩合に関西でのネコの思い出を聞くと「大阪の公園でネコを探していた時にカラスが電線の上で『アホーアホ―』と鳴いていて『あ、関西弁だな』と思ったんです。そしたらネコが真似して『アホ、アホ』って鳴いてるんですよ。おしゃべりなネコでした。すごくよく話しかけてくるので『関西人に似てるね君は』って言いました」と微笑ましいエピソードを明かしてくれた。
■岩合光昭写真展「こねこ」
期間:2019年12月14日(土)~2020年1月5日(日)
休館日:2020年1月1日(水)
時間:午前11時~午後7時
※土・日曜日は午前10時開館、金曜日は午後8時まで
会場:なんばスカイオ 7階コンベンションホール
料金:一般(大学生以上)800円、中高生600円
松原明子