チョコもコミュニケーションのツールに!地域を元気にするコミュニティーナースとは?

東京ウォーカー(全国版)

この時季に思い浮かぶものといえばチョコレート。看護師であり植物療法士でもあるコミュニティーナースの菊地結実子さんは、そんなチョコレートのなかでも、最近人気の高カカオチョコレートの健康効果に着目し、これを使って地域貢献に取り組んでいるという。そこで今回は、“チョコレートナース”とも呼ばれる菊地さんに、コミュニティーナースの活動について、また、地域の人々とのコミュニケーションの取り方について聞いてみた。

「ロコクリニック中目黒」の受付サイドに置いてある高カカオチョコレート


――まずは菊地さんの経歴を教えてください

急性期病院(急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行う病院)で10年、ICU/CCUに従事してきました。看護師の仕事はやりがいを感じますし、大好きなのですがそんななかで、これまで蓄えてきた知識が「“病気になった方”にしか提供できない」ということに少しずつジレンマを感じ始めたことと、「もう少し早く来院してくれていたら…」「もう少し、日々の暮らしの中で自分の体に目を向けてくれていたら…」と感じるような重篤な患者さんの症例を見てきたことで、“病気になる前から出会いたい”という思いを強く抱くようになり、“地域に根差したクリニック”である、この「ロコクリニック中目黒」にフィールドを移すことにしました。現在は、プライマリ・ケア、在宅診療、夜間診療、訪問看護をしながら、“お節介こそが予防医療の最前線になるのでは”という想いで、街に飛び出し、未病の段階から地域住民に寄り添おうとコミュニティーナースの活動をしています。

看護師であり植物療法士でもあるコミュニティーナースの菊地結実子さんと医師 瀨田宏哉氏


――菊地さんが行っているコミュニティーナースの活動について詳しく教えてください

地域の人の暮らしの身近な存在として「毎日のうれしいや楽しい」を一緒につくり、「心と身体の健康と安心」を実現するのが“街のかかりつけナース”、コミュニティーナース。100人いれば100通りの多様な実践方法があるのですが、その人ならではの専門性を活かしながら、中長期な視点で地域の人のケアを実践するというのが活動内容です。

皆さんにも「病院に行くほどではないんだけれど」とか「ちょっと辛いな」とか「なんとなく心が浮かない、人と会いたくない」といった、どこに相談していいのか分からないようなことってあると思うのですが、私はそんなときに、植物療法(フィトテラピー)でセルフケアをしたところ、心の浮き沈みが軽くなったという体験があり、現在フィトテラピースクールで植物療法士として講師もしています。植物療法というのは、薬理効果を持った植物の力を借り、人が本来持っている自然治癒力を高めて病気の予防をするもので、身近なものでいうと漢方もこれに近い存在です。私はこの植物療法をコミュニティーナースの活動のなかで、予防ケアの一つのツールとして皆さんに伝えています。

活動場所はさまざまで、例えばガソリンスタンドで働きながらコミュニティーナースをしている方もいらっしゃいますし、私は商店街の八百屋さんに立ち、買い物に来た地域の方々と交流する試みをしていました。この「ロコクリニック中目黒」では、定期的に街のみなさんが楽しめるイベントを開催し、そこで出会った方々のお話を聞いたりしています。イベントは高齢者でも小さい子供でも楽しめるもので、移動式駄菓子屋さんに来てもらいクリニックを駄菓子屋やギャラリーにしたり、アロマスプレー作りや姿勢のセミナー、また街や公園でのイベントに出展したり、クリニックをギャラリーにしたりしています。

駄菓子屋イベントのなかでは、高カカオチョコレートが一般のチョコレートに比べ糖分が少ないことや、急激な血糖上昇がないこと、カカオポリフェノールの近年注目されている効果などを“チョコレートクイズ”としてお伝えしました。日々の暮らしの中で手に取るものは意外と健康に繋がっているのかもしれない…というメッセージになったと思います。親子で参加いただいた方も多く、参加者は2時間で100人を越え、大きな反響がありました。この高カカオチョコレートは、イベント時以外でも院内で食べられるように受付の横に置いているんですよ。お子さんのワクチン接種後のご褒美になっていたり、「チョコの病院に行くよ」って言うと嫌がらずに病院に足が向かう、なんて声も聞いています。

ちなみに、カカオのポリフェノールなどは、植物療法的には、自然の恩恵を受けているハーブなどと同じように注目しているものではあるのですが、一人で家に閉じこもって食べていては“良いもの”とはいえないと思うんです。カカオポリフェノールの効果に期待するというよりも、みんなでワイワイ食べてこそ、気も緩むでしょうし、元気に繋がるものだと思うんですね。チョコレートという食べ物はみんなに愛されているものだからこそ、暮らしの中のコミュニケーションツールになると思いますし、コミュニティーナースが目指すものとどこか通じるのかなと思います。

――コミュニティーナースの活動で大切なのものはなんでしょうか?

関係性づくりです。自分のパーソナルなことというのは、そう簡単には話さないものなので地道ですけど、こういったイベントなども試行錯誤しながら行って、より良い関係性づくりを考えています。住民さん主導のサロンにこちらから通ったり、行政の方とも積極的に情報共有し、地域のみなさんが楽しく、元気に過ごせるように共に考えています。

やはり日頃からの関係というのは大切で、それこそ「受付に置いてあるチョコレートを食べていいのかしら」というところから会話が始まった方がいらっしゃって。趣味や庭のお手入れの方法など暮らしの話から、高齢であり一人暮らしがゆえの不安や最近の体調変化などいろいろ話しました。そこから、お家に呼んでいただき、遊びに行って、今は文通をさせていただいたりしています。病気になる前から顔を知っている、日々の暮らしのことを知っていると、いざとなったときに「この人に」となるんですよね。そういうのが関係性づくりかなと思います。

――今後の展望を教えてください

今後は、“暮らしの保健室”としての場が持てるといいなと考えています。そこに行けば会話もできるし、相談ものってくれる。老若男女、国籍問わず交流できる場がいいですね。「なんとなく辛い」というときに「あそこに行って相談しよう」と思ってもらえる場ができたらいいなと思います。

平井あゆみ

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