大河ドラマを終えた宮藤官九郎、待望の“ウーマンリブ”が5年ぶりに登場する。ウーマンリブは、宮藤が何物にもとらわれず、今やりたいことを自由にストレートに表現する大人計画の劇団公演。1996年にスタートし、大阪には03年の『熊谷パンキース03』で初登場、個性豊かなメンバーで上演される超人気シリーズだ。『七年ぶりの恋人』以来、5年を経て上演される書き下し新作は『もうがまんできない』。
バカバカしくも哀愁漂う現代人の日常を、コミカルにパワフルに描く群像劇だ。猥雑な街の一角を舞台に、解散寸前のお笑いコンビ、デリヘル嬢と店長、浮気妻と間男ら、ストレスを抱えた人々がワンシチュエーションで交差し、2時間ノンストップで駆け抜ける。
大人計画のメンバーで、松尾スズキと阿部サダヲがウーマンリブでそろうのは、ウーマンリブが関西に初登場した03年の「熊沢パンキース03」以来、17年ぶり。さらに柄本 佑、要 潤が大人計画に初参加する。
関西で久しぶりとなる記者会見に来阪した宮藤官九郎。5年も空いたウーマンリブの脚本は「感覚的にすごく新鮮、あぁ懐かしいという感じ」で書きながら、「5年前とは状況が変わり生きにくい社会になった」と宮藤自身が日常の生活の中に感じるストレスがポイントになっている。基本的にSNSを使わず、「演劇は生で観てこそ」と言い張る宮藤。
今回の作品はもちろん、ウーマンリブのこと、演劇への思い、そして関西公演中の過ごし方まで、多彩な宮藤官九郎を届けます。
【「ウーマンリブ」というユニット名のこと】
最初僕が芝居を書き始めたのは20歳ぐらいで、「宮藤くんの芝居はよくわかんない」って女優さんの評判が悪くて。しょうがないから男だけでやろうと『熊沢パンキース』の初演の時に男だけでやったら、それがすごく評判良くて。だから、僕は女性とは合わない、と自分で思っていたんです。で、ユニット名を考えていた時に、今回出演する宮崎吐夢くんが「宮藤さんがやるんだったら、ウーマンリブにしたらどうですか。宮藤さん、女の人のことなんにもわかってないから、ウーマンリブって付けて、ちょっとは女性の気持ちを考えたらいいんじゃないですか」って(苦笑)。で、ウーマンリブという名前に。僕が付けたのではないんですけど、まさかこんなに長く続くとは思ってなかった。
【ウーマンリブはどんなユニット?】
ウーマンリブは、なるべく自分にとって新鮮なことをやる場です。最初の頃は、演出助手をやりながらウーマンリブをやってたんです。松尾さんがすごく作家性の強い新作を立て続けに書いていたので、自分は作家性よりも、役者1人1人のおもしろさで2時間引っ張れるようなものを、と。大人計画のメンバーに対して松尾さんとは違う光の当て方をしたいなと思ってやっていて、それは今も引きずってますね。
大人計画って意外と女優が支えてる部分があるんですよね。女優さんの力がすごいなぁと思っていたから、最初のころは女の人を主人公にした芝居が多かったんです。でも、相変わらず「女の人のことを解ってない」って言われて。ウーマンリブって言ってるわりには、女性を解放してないんですよね(笑)。
今は、大人計画のメンバーを演出するという機会が、ウーマンリブの一番の醍醐味だなと思っています。大人計画のメンバーを外部の作品で演出するのとは違って、ウーマンリブの時はもうちょっとダイレクトな関係というか…。最近、みんなが忙しくなって全員集まれなくなってしまうこともあり、これは大事に続けないとなと思ってます。
【キャラクターの生み出し方】
ウーマンリブの場合は、役者に対する当て書きというのが一番大きいかもしれないですね。ただ今回だけは、屋上でスマホでゲームやってる人たちがいっぱいいて、物語が始まったらそれぞれに関係が出来ていくというのはどうかなっていうシチュエーションから始まったので。そこにどんな人がいたらおもしろいだろうと。まぁ、その時その時ですね。
【今回の発想は】
台本を書いていて、SNSが普及してから新作舞台を書いてなかったっていうことに気が付きました。舞台でスマホも、あんまり使ってないし。今回の作品の発想したのは、街角でポケモンGOみたいな携帯ゲームやってる人たちからなんですけど、やったことなくて。これはマズイ、若い人たちについて行かなきゃと思って、つい最近ポケモンGOを始めたんです。全然おもしろいところまでいかない(笑)。でも一応、そうやって若い人たちがやってることを今試してます。
【『もうがまんできない』というタイトルは?】
今回は皆さんが日常暮らしている延長線上にあるような世界観の、なるべくリアルなお芝居にしたいと思って、こういうタイトルにしました。いろんな“がまんできない”という感情が交錯する2時間ぐらいのドラマで、便利なものが世の中にあふれているのに人々のストレスはあんまり減ってないなっていうことがなんとなく感じられるような芝居にしたいなと。
【初参加の柄本 佑さん、要潤さんについて】
映像では何度か仕事していますけど、前から一緒にやりたかった役者さんです。2人の役は、解散がほぼ決まってるお笑い芸人コンビ。2人ともほかの作品でもいろんな役をやっているから、できればこれまであまりやってないような役をやってほしくて、芸人っていいかもって、キャスティングしてから決めました。
お互いに売れないのは相方のせいと思っていて、ネタ合わせしている最中にケンカになって、もうがまんできないという感情が爆発するという感じです。で、その場にたまたま居合わせた、同じようにストレスを抱えた人たちが、2人にちょっかい出して関わったり、関わらなかったり。2人を客演に迎えつつ、久しぶりに大人計画のメンバーとやります。
【宮藤さんの役は?】
自分の中で自分の役は一番最後でいいなと思って、考えてなくて。結局この場所に誰が出てきたらいいんだろうといろいろ考えた末、阿部君が平岩(紙)さんと不倫してる役なんですけど、その不倫してる平岩さんのダンナの役が僕です。
自分がやりたい役とかということじゃなくて、物語の劇構造の中で誰が足りてないかなと考えたら、そこだなと思って。だから、わりとちゃんと出ます。
【2時間リアルに過ぎる芝居って?】
ウーマンリブは、だいたい休憩は入れないスタイルでやっているんですが、時間を飛ばしたり場面転換したりせずに、その場で初めて会った人たちの中でどれだけドラマを動かせるか。自分としてはチャレンジですね。2時間でどれぐらい人間は関われるのかというのも含めて、やってみたいなと。
【具体的な“生きにくいこと”って?】
今、消費税がものすごいですね。店で食べるか持って帰るか、決めなきゃいけない。あとは、ファミレスの24時間営業がついになくなったり。映画もシネコンがどんどん出来て、結局自分が見たかった映画がすぐ終わっちゃうとか。そういうストレスフルな時代に、ストレスのたまる生き方を選んでる皆さんに、なんでこうなったのかなって考えるきっかけになればと思っています。で、「そっか、オレだけじゃなかったんだ」と思ってもらえるといいなと。
【演劇は生で観るべし】
大人計画のオーディションを受けに来る人達は、大概「YOU TUBEで観ました」って言うんです。でも僕は、演劇は生で劇場で観ないと観たことにはならないと思います。劇場に足を運んで、開演と共に客席が暗くなって、そこで役者がやるから演劇だと思う。映画も、ほんとは劇場で観ないと観たことになんないって思ってるんですけど。だからこそ生のありがた味というのがよりうまく出ればいいですよね。
難しいですけど…最近、芝居長いですよね、3時間半とか。しかも1万円以上するから、若い人は来ないんじゃないかって思うんですよね、多分。
【ヤング券(22歳以下の人向けチケット)のこと】
大人計画では、最近必ず設けています。料金が1万円以上する公演は敷居が高い。食わず嫌いで観てないんじゃないかなとか思うんですよね。これはけっこう切実な問題。だから、若い人たちに“行ってみるか”って思ってもらえる値段は3800円ぐらいかなと。僕らは20代の頃、下北沢のスズナリとかで安い値段で小劇場のお芝居観て、それで人生変わってるので。
松尾さんとか阿部君とか、荒川(良々)君とか、もちろん映像もすごくいいですけど、皆さんのほんとにおもしろいところを、できるだけ近い距離で観てもらえるのは舞台しかないと思っています。
【関西に来た時はどこに行く?】
最近はあまりどこにも行かないですね、仕事があるんで部屋にいます。でも、カレーは行きました。カレーは大阪すごいですね。劇団☆新感線の『ラストフラワーズ』(14年)の時に、阿部君がファンの人からもらった大阪のカレーの本を借りて、ずっと見ながら行きたいところに全部行きましたね。あの時、大阪にしかなかったんですよ、スリランカのカレーって。最近は東京にもあるんで、東京では行ってます。
あと、ライブやってたら見に行きますね、バンドの。調べて、大阪でしか見れないライブとか、東京で見れなかったバンドのライブが大阪であったら見に行ったり。最近、芝居が昼で終わることが多いから夜空いたりするんで、行ったりします。あと映画見たりとかね。意外と普通なんですよ。
あ、でも今回の休演日は東京へ帰んなきゃいけないんで、あんまりこっちにはいられないかもしれないですね。
くどうかんくろう●1970年、宮城県生まれ。91年より大人計画に参加。脚本家、監督、俳優、ミュージシャンなど多彩に活躍。脚本作品として、昨年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(NHK)など。現在、ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎月曜深夜0:12~、テレビ大阪)に出演中。10月には、超人気演劇ユニット“ねずみの三銃士”の新作脚本を手掛ける。
■STAGE ウーマンリブvol.14「もうがまんできない」 チケット発売中
公演期間:5月9日(土)~21日(木) 会場:サンケイホールブリーゼ
作・演出・出演:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、柄本 佑、宮崎吐夢、荒川良々、平岩 紙、少路勇介、中井千聖
要 潤、松尾スズキ
価格:7500円、ブリーゼシート6000円、ヤング券3800円(22歳以下、ぴあのみ取扱)
問合せ:0570・200・888(キョードーインフォメーション)
(取材・文=高橋晴代/撮影=西木義和)
高橋晴代・はーこ