吉岡里帆「誰かの力になれるなら」…映画『Fukushima50』にかけた覚悟とは

東京ウォーカー(全国版)

 撮影=Tsubasa TsuTsui


映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)に女優の吉岡里帆が出演する。本作は門田隆将著のノンフィクション書籍『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』を原作に、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故の際、発電所に留まって対応業務に従事した約50名の作業員たち・海外メディアから「Fukushima50」と呼称された人々の闘いが描かれたヒューマンドラマだ。吉岡里帆は、劇中で現場の最前線で指揮をとる伊崎(佐藤浩市)の娘を演じた。「最初は出演することが怖かった」という緊迫感溢れる本作を通じて、彼女が感じたこと、女優として得たものについて語ってもらった。

「この役を全うしなければならない」覚悟を持って挑んだ


【写真】リアリティを追求した避難所のシーン(C)2020『Fukushima 50』製作委員会


――本作への出演が決まったときの気持ちを教えてください。

【吉岡里帆】オファーがあった段階でとても緊張しましたね。というのも、映画の撮影に入る少し前に、別のテレビ番組で福島県にお住いの方に取材する機会があったんです。その方が、震災当時のことを真剣に丁寧にお話ししてくれたことを思い出して「(佐藤浩市演じる)伊崎の娘役を全うしなければいけないな」と引き締まった気持ちになりました。

――緊張感をもって作品に挑んだのですね。他の共演者の方も、本作のテーマゆえに、同じようにある種の”覚悟“をされていたんじゃないかなと思いますが、どうでしたか?

映画『Fukushima 50』より(C)2020『Fukushima 50』製作委員会


【吉岡里帆】そうですね。今回の撮影、私は後半にクランクインしたのですが、すでに撮影に取り組んでいた浩市さんを見て、この作品を背負っている印象を受けました。思わず「お体大丈夫ですか?」と聞いてしまうくらい、目に見える疲労感があり役柄とかなりシンクロしてらっしゃった印象です。そんな浩市さんや共演者の方々の苦しい表情を見て、私も呼応するように苦しさや緊張した雰囲気というのは感じましたね。もちろんキャストの方だけでなく、スタッフや監督も緊張感を持って取り組んでいたと思います。

――どのようなときに、緊迫感を感じましたか?

【吉岡里帆】撮影現場もかなりリアルだったんです。避難所のセットは、事前に拝見していた当時の写真とほぼ一緒だったので、なんとなく「本当にこうだったのかな」って考えさせられるような空気感が出されていました。しっかりと映らない部分、例えば「家族を探している」と書かれたメッセージボード1つひとつも、コメント含めて、すごく細かくて、「なんとかして家族を取り戻したい」と願った気持ちを再現しているように感じましたね。

「知らなかったことがたくさんあった」家族のことを考えずにはいられない


 撮影=Tsubasa TsuTsui


――作品を通じて、震災や福島に対して受けた印象があれば教えてください。

【吉岡里帆】私は当時関西にいたということもあり、知らないことがたくさんあったんだと考えさせられました。今回の撮影では、実際に被災者の方に会うことはなかったのですが、現場スタッフの方からお話を聞いたり、当時の写真を見たりして、家が無くなる、帰る場所が無くなるということは大変なことだなと思いました。当時、大きな被害がなかった関西にいてもCMや報道を見て、漠然と怖さを感じていたのですが、東北の方はきっと計り知れない想いを抱えていらっしゃったんだろうなって。今もその気持ちを完全に「わかる」とは言えないのですが、お話を聞いてすごく心が痛くなりましたね。

――演じるにあたり、若松節朗監督から指導されたことがあれば教えてください。

【吉岡里帆】若松監督からは、避難されている方が(家族や大切な人を)待ち続ける不安を役に乗せてほしいと言われました。だから、自然災害で普通の生活が突然断絶される怖さや、家族が危険なところにいる不安感などはかなり意識しましたね。シーン数自体が少なかったこともあって、気持ちの移り変わりや震災が起きて「最初はピンと来ていないけど、徐々に高まっていく不安な気持ち」などは常に意識していました。

映画『Fukushima 50』より(C)2020『Fukushima 50』製作委員会


――今回、佐藤浩市さん演じた伊崎利夫とは親子の間柄でした。作品を通して、家族に対して思うこともあったのではないでしょうか。

【吉岡里帆】そうですね。自分の父親だったらとか、母と弟のことを守れるかなとか、私も(今回演じた伊崎の娘)遥香と同じように母を見て、しっかりしなきゃと思うだろうなって、自ずと家族のことを考えてしまいました。監督から子ども時代に撮った写真がほしいと言われたので、父親が撮った写真を渡したのですが、映画に映っていないようなところ、例えば避難所に向かうために荷物をまとめるシーンでそれがふと間に入ったときは、特に考えてしまいました。写真は、一緒にいたという確固たる”証“みたいなものですから、一緒にいた家族を失う怖さに拍車をかけましたね。

出演を後押しした想い「誰かの力になれるなら」


映画『Fukushima 50』に出演する吉岡里帆撮影=Tsubasa TsuTsui


映画『Fukushima 50』(C)2020『Fukushima 50』製作委員会


――緊迫感のあふれる現場だったと思いますが、撮影中思わず和んだエピソードがあれば、教えてください。

【吉岡里帆】冬の体育館って、本当にとにかく寒いんですよ。でも体育館の真ん中の1つのストーブを囲む形でキャストやスタッフが集まって、何でもない話をする瞬間は、不思議と温かさを感じましたね。あと、泉谷(しげる)さんが、本当にお元気で圧倒されました。あまりに寒かったので「寒いので気をつけてくださいね」って声をかけたら、「里帆ちゃんにそんなこと言われたら元気でるしかないね!」って大声でおっしゃって、それは、思わず笑ってしまいました。

――劇中で父親と衝突シーンがありましたが。吉岡さん自身は、大切な人と衝突したら、どうなるタイプですか?

【吉岡里帆】相手がどうしてそんな言動を取ってしまったのかを考えて、その上で話しながら、ひも解くようにします。自分の考えを貫き通しても、絶対にうまくいかないので、つっぱねずに、拗ねずに、しっかりと話し合います。

――非常に難しい作品だったと思いますが、今回の作品で得たことがあれば教えてください。

映画『Fukushima 50』より(C)2020『Fukushima 50』製作委員会


【吉岡里帆】浩市さんから「今回の役に出ること迷わなかった?」って聞かれたときに、自分自身で責任を負って、覚悟をもって仕事しなきゃなと改めて思いました。正直、迷う瞬間もありましたし、いったいどこまで自分が役割を担えるんだろうという迷いはありました。ですが、もし今回の作品を見て誰かにとってプラスになる可能性があるとしたら、誰かの力になれるなら、怖がらずに挑みたいと思ったんです。

【吉岡里帆】それに、お芝居は実生活の延長線上にあるんだなとも思いました。避難所のシーンや、現場では冨田(靖子)さんと一緒にいることが多かったんですけど、撮影の合間もずっと一緒に過ごしていたんですね。無理におしゃべりしたり、作品の話をしたりするわけでもなく、本当に自然体で過ごしていました。そういうのがあったから、ピンポイントでしか映らない避難所のシーンで、リアルな生活感を出せたんだと思います。肩ひじ張りそうになるような作品でも、実生活の続きにあるんだなって、今回は改めて実感できました。

――最後に本作品を通じて、伝えたいことを教えてください。

 撮影=Tsubasa TsuTsui


【吉岡里帆】……『今、そばにいて他愛もない話をしている大切な人たちと過ごせることのありがたさ』を感じてもらえたらと思います。

於ありさ

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