――憧れの世界に足を踏み入れて逆に戸惑った部分はありましたか。
「変わらないですね。やっているうちにもっと好きになったというか。ちょっと自分っておかしいんですよ(笑)。頑張っている自分が好きみたいな。ナルシストなんですかね(笑)。入団直後は生活環境が変わったんで、すぐに体重が90キロを切ってしまったんですけど、食べてトレーニングしているうちに増えてきて。トータルで20キロぐらい増えたでしょうか。練習生のころは受け身の練習が一番つらかったですね。自分は格闘技の経験がなかったので、スパーリングで先輩に上に乗っかられると息ができなくなって」
――それにしても上腕がまるで丸太のようです。測ってみると45センチ! どのぐらい練習したらこのようなボディになるんですか。
「僕なんか小さい方ですよ。上背がないので体をごっつく、厚みをつけるしかないんです。厚みをつけないと体が壊れてしまうので。ヘビー級の選手とやる時は、身長がない分、厚みがないと確実に勝てませんからね。身長は頑張っても伸びませんけど、厚みはトレーニングをすればなんとか。けがをしないようにトレーニングをしているという感じですね」
――そのトレーニングは一日にどのぐらいやるんですか。
「昔は5時間とか平気でやっていたんですけど、いまは筋トレは一日1時間と決めているんです。集中力が続かないので。筋肉には疲労して、組織が壊されて、回復して、強くなるというシステムがあるので、それに合わせてその日その日で鍛える場所を変えたり、いろいろ方法を取り入れてやっています。プロレスで飯が食えないころは横須賀の『ゴールドジム』でアルバイトをしていたんですけど、そこにはボディビルダーたちがよく来ていたんですよ。そのアスリートたちの練習をいろいろ聞いて、自分で吟味というか勉強して。自己流ですけど、ボディビルの練習とか取り入れてやってます」
――日々の修練の中で必殺技のジャーマン・スープレックス・ホールドに出会ったわけですね。
「デビューして1年ぐらいのころなので、7年ぐらい前ですね。地方興行で先輩レスラーと戦った時に、相手を背後からつかんで何気なくジャーマン・スープレックス・ホールドをかけたんですよ。その試合は負けたんですけど、控え室に帰ってきて、その時のコーチから『お前のジャーマン・スープレックス・ホールド、すごくきれいだな』と言われて。それまで一回も褒めてもらったことがないのに、『すごくいい技だったからこれからも使えよ』と言ってもらえて。すごくうれしくてね」
――重い相手を背後からつかんで担ぎ上げ、自分の体が美しいブリッジを描くようにして相手の両肩をマットに叩きつけてフォールする。ただでさえパワーが必要とされる大技ですが、関本さんの場合はマットに横たわっている相手を担ぎ上げる“ぶっこ抜き”型です。かなり背筋を鍛えたのでは。
「背筋はレスリングに必要不可欠なものなのですからね。日常のウエイトトレーニングでイメージしながら鍛えました。背筋力を測ったことはないんですけど、下から重い物を持ち上げるデットリフトというので最高300キロを上げたことがあります。同じ重さを持ち上げたのはウチではほかに一人だけですね。自衛隊でウエイトリフティングやっていた岡林という若手で、全日本で6位ぐらいに入った選手なんですけど」
――実際に試合で相手を担いでからフォールするまではどんなことを考えているのですか。
「僕ってかっこいい、みたいな…嘘ですよ(笑)。最後はジャーマン・スープレックス・ホールドで決めたいというのはありますね。試合中から相手に攻撃を加え、ダメージを蓄積させて、元気がなくなって倒れたところを投げる。その時はファンの声も全然聞こえないですね。必死なんで。試合中に考えていることなんて何もない。無心というんですかね」
――これからもジャーマン・スープレックス・ホールドにはこだわりますか。
「はい! ここまできたら僕にはジャーマン・スープレックスしかないので」
――日本国内では「ジャーマン・スープレックス・ホールドの最高の使い手」なる呼び声が高いですけど、そのうちに関本選手の名前を冠することも。
「いえいえ。僕、最近のプロレスに疑問があって。ちょっと手の形が違ったりだとか、形が少し違うだけで技の名前が変わったりするんですけど、それが気に食わないというか。例えばジャーマン・スープレックス・ホールドはジャーマン・スープレックス・ホールドだし、バックドロップはバックドロップだから。難しい名前を新しくつけるよりはシンプルなのがやはりいい。初めてプロレスを見た人は訳のわからないことを言われて混乱するじゃないですか。でも、バックドロップだったらわかる。おじいちゃんでもおばあちゃんでも四の字固めといわれたらわかるじゃないですか。そういう感覚でいきたいですね」