「ゴールデン☆ベスト」をリリースした“つボイノリオ”にロングインタビュー!【2】

関西ウォーカー

【「君らは歌に徹しなさい」と言われて】

■今回リリースされた『つボイノリオ ゴールデン☆ベスト』はCD2枚組になっています。ディスク2の1曲目に入ってる“本願寺ぶるーす”(1970年)。これは公式な初録音という形になるんですか?

T:そうですね。これはギターやり出して、今までウクレレで覚えたコード…名前同じですからね、「こうやってやってけば弾けるなあ」と思って、それでブルース・コードを覚えたわけですよ。「12小節でこれの繰り返しか」と。で、覚えてて、「これに歌詞を付けようかなあ」ということで、歌詞が浮かばないんですよ。何にも浮かばない。で、しょうがないなと思って、ウチがちょうど本願寺なもんですから「正信偈(しょうしんげ)」いうのが本願寺の基礎のお経にあるんですけども、それはもう子供の頃からこのへんは(浄土)真宗が盛んなとこですから習わされるわけですよ、お経を。で、ジャンジャンジャン、帰命無量寿如来(きみょうむりょうじゅにょらい)、ジャンジャンジャン、法蔵菩薩因位時(ほうぞうぼさいんにじ)、ガンガンガン、在世自在王仏所(ざいせじざいおうぶっしょ)…って「これ、いいじゃないか」ってブルースで延々やってたんですけど、そういうのを面白いなあと思ってスッとCBC(中部日本放送)の深夜放送で「出ろ」って言われたから「何もないからこれ歌おう」って、で、それをやったんですよ(ちなみに、今回の『つボイノリオ ゴールデン☆ベスト』に収録されているのは、この時の、まさに「初レコーディング」バージョン)。

■じゃあ、しゃべり(で有名になる)よりも演奏のほうが早かったってことですか?

T:でもしゃべりもね、聴いていただければわかりますけど、けっこう言ってるんですよ(笑)。「この曲をお買い上げの方に豪華お葬式セット」とかですね、そんなことをずーっとイントロで言って、あとブルースやるだけと。それがリクエストが殺到して、テイチクのほうから「レコード出さないか」ということで、それで初めてレコードを。

■テイチクさんなんて大御所ですよね。日本の最も古いレコード会社のひとつ、みたいな。

T:そうなんですよ。古いところだから権威はあるんで…。僕は田舎の学生でしたから。それが本格的レコーディング・スタジオに行くわけですよ。と、向こうはやっぱ、今までの音楽的権威主義ですよね。当時は4トラック・レコーディングの時代で。でも僕らは知ってるわけですよ。どんな田舎にいてもロック雑誌とか見てると何チャンネルも入れて録ってるわけですよ。

■「ビートルズは『サージェント・ペッパーズ~でこんなに使った」みたいな(笑)。

T:そう、そういうのは頭にはあるけど、向こうは、田舎から来たやつだからってことで、「とにかくこれでやってください」と。「僕、演奏したい」「いや、君ら素人だからプロの中に入っても合わないし、君らは歌に徹しなさい」と言われて。「演奏はいいから。でも声だけは君らの声じゃないと、どうしようもない。君らよりいい演奏する人いくらでもいるから、それはこっちのほうでやりますよ」と。

■それってよく話に聞く、当時のグループサウンズのバンドが体験したことみたいです(笑)。

T:ああいうふうですよね。きっとストーンズとかそういうのに触発されて作ったとしても、レコーディングする時にはだいたい歌謡曲テイストになってしまいますよね。ゴールデン・カップスでも、あれはブルースをガンガンやる連中ですけども、レコーディングすると“長い髪の少女”みたいになっちゃうわけですよ。僕らはいろいろ要求出したんです。まず、仏教ですから「シタールみたいなやつをビヤ~ンと入れてほしい」って。シタールでビヤ~ンと始まって、で、僕はブルースハープ好きだから「ブルースハープでやりたい」と。「よし、全部こっちで用意するから」って言われて行ってみたら「君、シタールはね…」って言われて「あれは本当に難しいんだ」と。

■(笑)

T:「あれは難しい。弾く人は東京でもほとんどいない」って言うわけですよ。いや、あのシタールのテイストさえあればいいから、例えばビートルズも入れてるし、当時の遠藤賢司もね、シタール入れながらやってた曲があるんですよ。だから「本格的に弾かなくてもいいから、シタールみたいなビヤ~ンヌワ~ンって音から始まればいいんですよ」って。

■お経に合いますよね、確かにそれは。

T:ええ。だけど「それはちょっとね」って。当時のテイチクんなかには、たぶんそういうノウハウというかがないわけですよ(笑)。そういうのが全然。んで、「じゃあマウスハープ入れてもらえますか?」って「マウスハープって何だ?」って言うから「ハーモニカですよ」って言ったら「わかった」と。で、当日スタジオ行ったら、こんなでっかいハーモニカ持ったおじさんがいて(笑)。確かにどんな音でも拾えるような達者なおじさんですけど、音が違うじゃないですか。

■“赤とんぼ”とか郷愁あふれる曲のほうが合うやつですね。

T:そういう感じの音だから、一応ブルースの音は拾ってくれてるけど「でも音が違うだろぉ~!」っていう。グループサウンズとかそういう人の話を聞くと、やっぱり当時は歌謡曲しかなかった時代で、新しいこういう連中がガーッと来る時にはきっと現場でこういうような今までの権威みたいな人とのぶつかり合いと、で、いかにそういうのを「いいよ」って受け入れるレコード会社がその後伸びていったレコード会社であって、そこをはね除けながら今までのノウハウでやってると、まさにその典型的な…。

【取材&文=伊藤英嗣】

→【3】に続く

http://news.walkerplus.com/2011/0908/19/

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