■歌謡曲の先生方に。
T:テイチクの時にアレンジしてもらったのは、池多孝春先生という演歌の大御所だったんで、僕はそんなに偉いとは思わなかったけど…。
■まあ、業界の大御所に対する反発心というか…。
T:でも、本当にいい感じでね、パイプ吸いながら…。紳士然としたね。業界の人だけどギラギラしたいやらしさはなく、気持ちのいい業界の人で、テイチクのスタジオでも「こういうアレンジだから」っていろいろやってくれた時にピアノの横で「ちょっと歌ってごらん」って言われた時に「こういう先生のところで俺やってんだ」っていうね、すっごい嬉しかったです。そんな偉いとは思わなかったけど、帰ってきてドラマの『花と竜』とかを見た時に「編曲:池多孝春」って書いてあるんですよ。「あ、すごい。すごいぞ、これ!」って(笑)、「すっごい先生だな!」ってことで、エレックの時も(そのあとでシングルをリリースした)ソニーの時も僕の指名で「池多先生をお願いします」と。
■池多先生が編曲を手がけられた“吉田松陰物語”、これは、ほんとにヤバいですよね(笑)。これはぜひお訊きしたかったんですけども、《金太、守って》は大丈夫じゃないですか。男の子は誰でもそういうネタは好きだし、女の子もそんなには嫌がらないと思うんだけども、《お万、こけるな》とか《吉田松陰、芯、舐めた》とかってかなりヤバいっていうか、「こんなのいいの?」って思ってました。
T:「こんなのいいの?」って(笑)。
■いたずら心はあるけど、多少なりとも破壊というかパンク精神というか「ぶっ壊しちゃえ!」みたいなのがあったんですか?
T:あのね、“金太~”を出した時に親父が喜んでね、親戚に配ったんですよ、レコードを。「ウチの息子がこんなの出した」って。で、みんなも「よかったよかった」って、「息子さんもどうなることかと思ったけど、よかったよかった」と。それで「いやー、お前のおかげで父さん鼻が高かったぞ。親戚も『よかったよかった』って言ってくれてたからな。ところでどういう曲なのかちょっと聴いてみようか」って。「聴いてから行けよ!」っていうんだけども(笑)、で、帰ってきて聴いたら「お前、こんな曲出したのかーっ!」って。
■ふははははは!
T:で、また親父は親戚のとこ行って「とんでもない曲です!」って(笑)。でも親戚の人は「このくらいいいよ」って言ってくれたんです。で、今度“~お万の方”出したら、親父も「また許してくれるだろう」って配ったら「これはダメだ」って言われたって(笑)。
■うはははははは!
T:温かかった親戚が「これはダメだよ、これは!」って。親父、打ちのめされて帰ってきた(笑)。
■(笑)“金太の大冒険”に話を戻すと、それがカントリーウエスタン調だということには意味があると思うんです。昔から、アメリカの30年代40年代50年代って、ノベルティ・ソングというのが、アメリカのポップ・ミュージックの重要なジャンルのひとつとしてあった。だから、それにつながるというか。つボイさんの歌詞の乗せ方って、ポップ・ミュージックとして一級品だと思うんです。日本ではノベルティ・ソングの位置づけが今イチ低い。そういう意味では嘉門達夫の罪が重い気がするんですよ。嘉門達夫の歌の乗せ方って超ダサいと思うんですよ。音楽的じゃないっていうか。だから特に日本ではノベルティ・ソングはいつの間にか“色もの”みたいに思われてるけど、もともとポピュラー・ミュージックの歴史から見れば王道ですからね。“金太の大冒険”は、そういった意味でアメリカン・テイストもあって、オーソドクスなノベルティ・ソングと言えると思うんですけど…。“~お万”はヤバいですよね(笑)。
T:“~お万”はヤバいですね(笑)。
■いい意味で、さらに破壊的というか。“吉田松陰物語”ともども、まさに空前絶後の「日本の」ノベルティソングになっている。《松陰、芯、舐めた》っていうのも中学生の時は理解できなかった…。辞書で調べてようやく(笑)。
T:もっと言うなればね、“~お万”もヤバいですけれども、さらに《松陰、芯》もヤバいですが、吉田松陰神社といって、今ね、御神体まで崇め奉られる人の、そして松下村塾、日本の明治、元勲たちを作った人の歌なのかこれは、と。当時「誰だこれを歌ってるのは!」っていうのはありましたですよ。
■ありましたか! 身の危険を感じましたか。
T:東海ラジオでかけた時に2、3本電話かかってきましたよ。
■今の若いコとかが聞いたら「信じられない」と思いますけどね。
T:だからね、東芝(EMI)で(1996年にベスト盤が出たときに、この曲を)一回外したんですよ。「でもいいや」と思って(今度は)出しちゃった(笑)。この曲に、《愛する妻や門弟が、涙を流し、悲しがる》って歌詞があるでしょ?
■はいはい。《吉田松陰、死んじゃいや》《やりとげてほしかった》という…。
T:あの吉田松陰は生涯独身だったんです。だから、これはその人ではないんです。
■素晴らしい! 別人です、と。
T:別人だからこそ、妻が出てくるんです。
■最高の理論武装! というかかっこ良すぎますね(笑)。中学生時代ってセックス・ピストルズとかが出てきた時だったんで、たぶん一緒に聴いてたんですよね、セックス・ピストルズと『ジョーズ・ヘタ』を。いろんな意味で、それらには似た部分があったのかな、と…。
T:ありがたいですね、いいものと並べていただいて。(セックス・ピストルズ末期にシド・ヴィシャスがそうしたように)“マイ・ウェイ”でも歌ってやろうかしら。
【取材&文=伊藤英嗣】
→【7】に続く
http://news.walkerplus.com/2011/0908/22/