最新アルバム「命結=ぬちゆい」をリリースした加藤登紀子が震災のこと、自身のことを語る!(その1)

関西ウォーカー

世代やジャンルを問わず、若手アーティストとのコラボや音楽フェスなどに積極的に出演する加藤登紀子。アルバム「命結=ぬちゆい」のリリースを機に、東日本大震災のことや自身のことをたっぷり語ってくれました!

-今回のアルバムは震災という出来事が軸になっているように感じました。

そうですね。順番からいくと逆かもしれないけど「蒼空(そうくう)」とか「悲しみの海の深さを」は、阪神大震災の後に作った曲なんです。そういう意味では「君が生まれたあの日」も「生きてりゃいいさ」もそれより以前に完成されていた曲なんですけど、本当に…今歌うと、今だからこそ響くというか。そんな感じがして。なので、改めて聴いてもらいたいという想いで、今回のアルバムにも入れたんです。

-アルバムタイトルである「命結ーぬちゆい」という言葉はどこからうまれたものですか?

アルバムタイトルでもある「命結ーぬちゆい」という言葉を思いついたのが3月の10日で、翌日の3月11日がアルバムのミーティングだったんです。アルバムコンセプトを考えていた時に「命(ぬち)」と「結(ゆい)」という言葉があって、これが一緒になればいいな、と思って考えついたタイトルだったんですけど、デモ録する時間もなくて、ミーティング当日にギターでこの曲を聴いてもらっている時に、ちょうど地震がきたんです。ミーティング中止にして急いでギターを持って避難したんですけど、それからは一旦アルバム制作を中止にしようということになって。それからしばらく、1か月くらい経ってからなんですけど「命結ーぬちゆい」という言葉こそ、これから必要なものだとディレクターが思い返して、再びアルバム制作がスタートしました。

-震災後のわりと直後に、関西ウォーカー編集部での生ライブをユーストリームで配信されてましたよね。

あの当時は、私もですけどもうみんなやっぱりうろたえていたし、「何か出来ることはないのか」という気持ちでいましたから、私は歌で助けたいと思って。それで是非にとお願いしまして1時間のお時間をいただきました。それがあったからこそ「今どこにいますか」という曲ができたんですよ。やっぱり私なりに気持ちというか、「何を歌えば伝わるんだろう」ということをすごく考えていて、そういうプレッシャーをすごく感じていたんですけど、せっかく生ライブの機会をいただきましたから、なにか一曲、新しい曲をと思っていて。あと、「命結ーぬちゆい」の詩を完成させないと、ということでギターを持ってウロウロしていたんですけどね(笑)。結果としては「命結ーぬちゆい」は5月に完成するんですけど、自分自身の気持ちが少し落ち着きを取り戻してから、やっと出来たんですよね。あの当時はどうしても詩が書けなくて。時間が必要でしたね。

でも逆に「命結ーぬちゆい」という言葉があったからこそ、今回のアルバムに繋がったわけですから。だけど、震災が起こった当時の自分のなかには、どこか嵐のように止まらない気持ちが確かにあって。なので「今どこにいますか」という曲が先に出来上がったんです。

-生ライブの前に、先に手書きで書かれた詩を送っていただきましたよね。

あれはニュースを見ながら、とにかくずっと詩を書き続けていたんですよ。

-震災が起こったその瞬間は、音楽の力に対する疑念というか、音楽の力なさというものに打ちひしがれたアーティストさんも多くおられたみたいですが、加藤さんはやはり音楽というものの力を信じていらっしゃった。それは、やっぱり私自身のためですよね。私がいてもたってもいられなくて、私の気持ちを歌に込めることが出来て初めて落ち着くし、波だっているものが落ち着くんですよね。歌に対する疑問っていうのは…まあ、始めからそんなに凄いぞとも思っていませんけれども(笑)、それは私自身が…私の気持ちがまとまるために、落ち着くためには、やっぱり歌が必要でした。東京も本当に大変で、原発にしろ社会の仕組みにしろ、ずっと当たり前のようにあったものが土台から壊れていく瞬間を目の当たりにした時に「歌を作らなきゃ」と思いましたね。私は、自分のオリジナルの曲は自分のために作ってきたようなところがあると思うんですよ。そういう風に思えるようになったのは「ひとり寝の子守唄」からなんですけど、それ以前までは、何か売れそうな曲をとか(笑)、みんなはどういうのが好きだろ?とか「みんなのために」という気持ちが強かったんですけど、そういうものを全部かなぐり捨てて、「いいんじゃない、自分のために曲作ったって」って思えて出来た曲でしたね。それからずっと思うのが、自分が生きていくために、自分がちゃんとしていられるためには、歌が必要なんだということですね。

-震災のことがあって、登紀子さんの歌詞は「前向き」というよりむしろ「救い」の意味のほうが強いと感じました。そういう意味ではアメイジング・グレースも象徴的な曲のひとつですね。

私もただポジティブな歌詞っていうのはちょっと恥ずかしいんですよね(笑)。いろんな考えがあると思うんですけど、被災地でライブをやった時なんかは、やっぱり明るい曲を歌ったほうがいいのかなとか、みんなもそれを求めている部分もあったりとかで。だけどそこには痛みや暗い部分が確かにあって。そこにちゃんと触れないと明るくなんてなれないと思っていて。これはライブでもいつも思うんですけど、客席にはどんな人がいるかわからないじゃないですか。本当に全員で盛りあがってくるためには、それぞれの心情に沿う曲が必要だなということは常日頃から考えていますね。

(その2に続く)

http://news.walkerplus.com/2011/1019/21/

【取材・文=三好千夏】

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