【林 信行さんロングインタビュー】2012年、魔法の時代がやってくる!~ITが拓く未来~(その3)

関西ウォーカー

ソーシャルメディアが発展し、スマートフォンをはじめとする新たなデバイスが広く普及した現在、ITの世界は岐路に立っているといえる。これから先、私たちとITの関係はどう変化していくのだろうか。長年ITやソーシャルメディアなど、次代の最先端の取材を続けてきたITジャーナリストの林信行さんに、2012年の動向を聞いた。

「スマートフォンが本領を発揮」

—これから、スマートフォンがデバイスのあり方を変えるといっても過言ではありませんね。

林 ことしはいよいよスマートフォンが本領を発揮する年といえます。スマートフォンはマルチタッチばかりが注目されていますが、iPhoneはさらにその先に向かっていて、すでに画面を見る必要のないデバイスになっています。たとえば、Google翻訳を使えば、音声だけで翻訳ができます。また、ボイスオーバーを使えば、指で画面を左端に向かってこするか、右端に向かってこするかで前後のメニューを選択し、ダブルタップで、その項目を選択。現在、どの項目を選んでいるかを声で読み上げてくれるので、画面を一切見ずにほとんどの操作ができるようになります(画面上の文章も読み上げてくれます)。

特にことし登場するSiriの日本語版には注目です。スケジュールを読み上げてくれたり、アラームをセットしてくれたり、電話をかけてくれたり、一切画面に触れずにSMSを送ることも可能になります。デバイスがさらに未来に向かっているといえるでしょう。まるで魔法の時代のようです。

iPadアプリの「元素図鑑」の制作者は、この本がハリー・ポッターの世界にあればどんな感じだろうと考えて作ったそうです。元素をグリングリン回したり、時間を止められるようにしたり、いまのテクノロジーで可能なハリー・ポッターの世界、魔法の世界を実現したそう。

僕は2007年、アメリカでiPhoneが発売された年に「iPhoneショック」という本を書きました。これはiPhoneのすごさを語るだけの本ではありません。iPhoneはいずれ日本でも発売される。そうなれば日本メーカーは追い込まれるから、そうならないように、いまから会社を建て直せと訴えた本です。

iPhoneは将来家電すべてにつながっていきます。便座やホテルの照明の設定などもiPhoneで設定できるようになる可能性を秘めています。実際、携帯電話は温泉に行って脱衣所まで持って行く唯一のデバイスです。この肌身離さずに使う唯一の道具が、今後、あらゆる情報の窓口になり、あらゆる家電を操作する万能リモコンになることは見えています。ここを握られてしまうのは家電メーカーにとって大きな損失でしょう。

「大阪、関西から面白いアプリが出ている」

林 iPhoneやiPadでいえば、大阪、関西にはユニークな活用方法を提案しているアプリメーカーが多数あります。たとえば、大阪のクラシカという結婚式場では、結婚式を挙げるとiPadが1枚提供されます。あらかじめインストールされたアプリで、両親の顔合わせや結納といったスケジュールのチェック、結婚式の基礎知識、招待客に関するチェックリスト、予算管理、食事など結婚に関するあらゆることを確認できます。極めつけはドレスとテーブルコーディネートの色合わせ。実際の披露宴会場の写真を回転させることができます。ウェディングのコンシェルジュ代わりになるアプリです。これは大阪人がトップのチャビオという会社が作ったものです。

私はこのアプリから、さまざまなインスピレーションを受けました。例えば日本のウェディングをアジアに輸出できるのではないかとも思いました。引き出物のカタログが入った状態でアジアに輸出できるかもしれないし、日本人もよく訪れるハワイのホテルとも連携したり、アメリカにも日本のウェディングを輸出できるかもしれません。

あるいは京都の焼き肉店「徳」は、鴨川を見ながら個室で食事ができる店ですが。iPadを使って自分でオーダーできます。これも大阪の会社、ファインフーズがシステムをつくっています。合計金額も、割り勘ボタンで一人あたりの金額を出すこともできます。

大阪のデジタルファッションという会社が作ったアプリ「HAOREBA」はニッセンや千趣会、夢展望などのカタログなどに使われていますが、モデルにいろいろな服を着せてコーディネートし、360度回転させることができます。こうしたインタラクティブなカタログを採用した上記三社は、今年、iPad版のカタログが功を奏し、大きく売りあげを伸ばしました。

大阪には市井の技術者が多く、大阪発のアプリケーションはまずニーズがあって作られ、地元に根を張った良質のものが多い印象を受けます。

これに対して、東京発のアプリケーションは、競争が激し過ぎるのか、隣のライバル会社ばかりや、ビジネスチャンスになりそうな新技術ばかりを見ている。新しい技術が出てくると、それを性急に搭載して、「これは御社でも便利なはずです」と無理矢理、力任せの営業力で広めている印象です。大阪を見習ってほしいと思いますね。

(その4に続く)

http://news.walkerplus.com/2012/0104/9/

【取材・文=鳴川和代】

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