おおさかカンヴァス座談会④
●俺ん家セルフ屋敷
「セルフ屋敷」/北加賀屋エリア/作者:コタケマン
今回のおおさかカンヴァス作品を巡るアートツアーのなかでも特に異彩を放っていたのがこの作品だった。
作者であるコタケマンが生家をまるごと作品として公開しているのだが、彼はこの場所で、約5年越しで制作しつづけているという。
北加賀屋エリア内にある、またしてもごくごくありふれた住宅街のなかにそれはあった。もとは商店だったというその家にはそれらしく緑色をしたビニールの庇があり、大きく「セルフ屋敷」と記されていた。
「セルフ屋敷…?」
一瞬、商店時代の店名をそのままにしてあるのかと思ったが、それこそがまさに作品名だったのである。
中に入るとまず、狭すぎる玄関先で靴を脱ぎ、日本家屋ならではの狭くて急な階段を上っていくのだが、もうここからすでにおかしい。
何やら白くて柔らかい生地が敷き詰められ、一瞬でも気を抜くと滑り落ちそうな階段、天井からぶらさがっている臓物なのか何なのかよくわからないオブジェの数々、そして思わず凝視してしまうほど緻密でエキセントリックな絵がビッシリと描かれた壁…
この“屋敷”に一歩足を踏み入れた瞬間、これを作り続けているという作者に対する興味がふくれあがったと同時に、恐くもなった。だって、ぜったい変態に決まってる。それも、もの凄い変態。
やっとの思いで階段を上りきり、2階の居間らしき座敷を覗いた。
この日は何やらイベントが行われている模様で、同じように異様なオブジェで飾られたその空間では男女数人が輪になり、歌(ライブ)に耳を傾けていた。
「そうめん〜 細くて白いそうめん〜食べたいなア〜」
なんだか気になって少しだけライブを見てはみたものの、どうしようもなく頭が混乱してきたので、急いで“作品”を鑑賞することに切り替えた。
しかし、この“作品”のなかに入ってからと言うもの、何だか酔っぱらったような、足下がふわふわする感覚が収まらない。ここは一体どこなんだろう…あの狭い玄関から先に入り込んでからずっと、そんな気分でいる。異空間とはまさにこういう場所なんじゃないか。天国でも地獄でも桃源郷でも現実世界でもない、ここはどこだ?
自分の中で沸き起こるあらゆる「初めての感覚」に戸惑っていると、作者である「コタケマン」が現れた。
こんなにも常軌を逸した作品を作っているのだからやはり…という個人的な予想と反して、なんともナチュラル(ハイ)で穏やかそうな面持ちの青年ではないか。
以下⑤に続く
http://news.walkerplus.com/2012/0125/19/
【取材・文=三好千夏】