「Bon Voyage」というフレーズが入った今回のツアータイトル。その名の通り、「良い旅を!」…、すなわち彼らの新たな旅の始まりを告げる。7年半という長いようで短かった活動期間だが、他のバンドの解散と違いウェットな雰囲気は一切ない。本当に笑顔で「これからも、良い旅を! 今までありがとう!」と明るく送り出す感じである。開演前、場内は手旗の売り子が巡回し、多くの観客が嬉しそうに手旗を買う光景が観られた。今回が最後のライブとは、全く思えない。
定刻通り、客電が落ち、スクリーンの間から椎名林檎が現われる。総勢40名のオーケストラは、全員水兵の格好をしている。2曲目「新しい文明開化」では林檎が拡声器を手に躍動的に歌い、しょっぱなと思えないほどのダイナミックなパワーを感じた。天井から舞落ちる色とりどりの紙吹雪の中、観客は無心に手旗を振っている。3曲目「今夜はから騒ぎ」では伊澤一葉の奏でるピアノのフレーズも相俟ってムーディーな空気が醸し出される。続く「OSCA」はイントロのフレーズが鳴っただけで、歓声が上がる。PVを彷彿させるかのようなおかっぱで赤いミニワンピース姿のダンサーが登場し、舞台狭しと全力疾走したり突如倒れたりしながら、全身をMAXに使ったダンスで盛り上げた。ダンス、映像、紙吹雪やスモークを始めとする特効など様々な演出で観客を虜にし、楽しませてくれる。エネルギーに満ちた舞台に圧倒される。7曲目を前にオーケストラの演奏する「カーネーション」が流れる中、映像とナレーションでメンバーが紹介されていく。まるで朝の連ドラを観ているかのような気分になり、魅了されてしまった。
林檎が鍵盤を、伊澤がヴォーカルを担当した「怪ホラーダスト」、次曲「ほんとのところ」では林檎がドラムを、刄田がヴォーカルを担当する。東京事変が手練かつ自在なバンドである事が伝わってくる。14曲目「アイスクリームの歌」では赤のスーツに身を包んだ亀田誠治、刄田綴色、浮雲、伊澤が横並びのマイクで軽妙洒脱に歌い、改めてバラエティーの豊かさに感心させられてしまう。再びステージに現われた林檎がダンサーと歌い踊る「女の子は誰でも」はまるでレビューを観ているようだった。20曲目「電波通信」では林檎もギターを鳴らす。昔からのファンとしては、彼女がギターを持つと、初期の頃を彷彿させるのか思わず心が躍ってしまう。
24曲目「空が鳴っている」で本編は終わり、アンコール、メンバーはマリンルックで登場。1曲目「丸の内サディスティック」は、林檎のデビューアルバム「無罪モラトリアム」に収録されている楽曲。ピアノの音色が印象的なジャジーな雰囲気の演奏。そして、東京事変のデビュー曲「群青日和」。ギターを掻き鳴らす林檎が、本当に本当にかっこいい。バンド結成された当時のフレッシュなパワーを感じる楽曲である。ラスト「青春の瞬き」ではライトで照らされた林檎が、神々しく映る。とんでもない才能を持った人なんだなと、感慨に耽ってしまった。
ダブルアンコールで「透明人間」。ダンサーが客席に紙テープを投げ続ける。歌い終えて舞台を去る林檎。やがて演奏を終えたメンバーも去り、スクリーンに「merci」という言葉が一文字ずつ打ち出される。クレジットが流れ、最後は砂嵐になり映像は途絶えた。何ともドライで潔い終わり方…、最後の最後まで東京事変はクールなバンドであった。
【レポート=鈴木淳史(2/22 大阪城ホール公演)】