3月3日のひなまつり。今年で歴史に名前が登場して550年を迎える池坊が、大阪髙島屋を会場に「いけばなの夜明け〜Ikenobo-On the rice いけばな池坊550年祭」を開催し、この日だけのスペシャルイベントとしてファッションデザイナーのコシノジュンコさんが来場。観客の目前で「いけばなライブパフォーマンス」を行った。
展示会場の一角に設けられたステージ付近には、開始30分前と言えどもすでにたくさんの人だかり。日本ファッションシーンの旗印であるコシノジュンコさんを一目みようと、嬉々とした表情の女性陣の熱気であふれていた。
イベントの冒頭では、池坊次期家元である池坊由紀さんが登場し、ご挨拶。それに続いて、コシノジュンコさんが笑顔でステージ上へ現れた。
ちなみにこの日のコシノ先生のファッションは、艶やかなグリーンが目をひくシルクのブラウスに黒のサルエルパンツというスタイリング。シンプルなのに個性的で、とっても素敵でした。
ところで、今回の「いけばなライブ」は、コシノ先生にとっても初めてのチャレンジ。
「いつも多忙だった母が、仕事の邪魔者である私たち姉妹を追い払う目的で数々のお稽古事に通わせてくれていました。その時にいけばなも習っていたのですが、なにせじっとしているのが苦手な私は、長時間正座をしていることがまず無理で、イヤイヤ通っていたのを覚えています(笑)。いけばなをやるのは本当にそのとき以来なのですが…しかも今日はこんなにたくさんのお客様の目の前でという人生初の試みなので、どうなることかと思っています(笑)」。
と、来場者からの熱い視線(?)を浴びながらのシチュエーションに、少々緊張気味の様子。
とは言え「何でもやってみなきゃわからないですからね!」と、持ち前のバイタリティで意気込みはバッチリ。
今回コシノ先生がいけばなに使用する花は、現在NHKで放送中の、コシノ三姉妹の母である小篠綾子さんの生涯をモデルにした大人気ドラマ「カーネーション」にちなんだ「マザーグリーンアース」という、淡いグリーンのグラデーションが何とも美しい新種のカーネーション。
「カーネーションというと、やはり”母の日”というイメージだと思うのですが、私の母のバースデーフラワーでもあるんです。今回は敢えて、例の真っ赤なカーネーションではなく、優しい色合いが美しい品種を選びました」。
長方形をした漆塗りの花器が用意され、いよいよ「ライブいけばな」のスタート。
台の上にあふれるほど用意されたカーネーションの茎や葉をほとんど迷うことなく剪除し、手際良く次々と花器に挿していく。
直感のほんの少しの狭間に一瞬の思索を入れながら、頭のなかにあるイメージが瞬く間に形を成していく。インスピレーションのまま、本能的に、かと思えばとても緻密に。
コシノジュンコという気鋭のデザイナーのクリエイティビティを垣間見たような気がした。
みるみるうちに2つの花器がカーネーションで埋まっていく。
「コントラスト」がテーマだという今回の作品は、非対称的に傾斜を描いた斬新なデザインながら、やわらかく、どこかやさしい佇まいを思わせる作風。
完成された作品を前に「いいわ〜」「きれいね〜」など、観客からもたくさんの感嘆の声があがった。
「大胆にして緻密、とても素晴らしい作品を作ってくださいました」
と、池坊由紀さんも大絶賛。
「センスというものはもちろん大切なのですが、私が考える美しさというのは“引き算の美”。基本があった上で、どこをどう崩すのか。どこまで引いて、何を残すのか、という事がとっても大切だと思っています。華道の素晴らしさは、ただ勢いで創られるものではなく、長い歴史のなかで脈々と培われてきた強さ、生命力の凄さが存在していることです。今回はみなさんの前で、あんなに苦手だったいけばなを披露するという初めての試みでしたが、実際にやってみて本当に思いますのが「やったことが無いことほど経験してみるべき」ということ。これはいつも言うことなのですが、みなさん、当たり前のことですが「今日」がみなさんにとって一番「若い日」。「若いころにもっといろいろやっておけば…」なんて言わずに、今からでもすぐに好奇心を持って、新しいことにチャレンジして、ドキドキしてください!」
と、最後にコシノ先生らしい“お母ちゃん”ゆずりのポジティブな言葉を贈ってくれた。
そしてポジティブなエネルギーに満ちあふれ、常に『自分自身』を生きているコシノ先生は、やっぱり「カーネーション」のなかでもひときわ異彩(異才)を放つ次女“直子ちゃん”そのまま。
今回のイベントで、リアル“直子ちゃん”に触発され、いよいよフィナーレに向かうドラマのほうもますます楽しみ!!
みなさんもお見逃しなく!
【取材・文=三好千夏】