「人狼 JIN-ROH」の沖浦啓之監督が7年もの歳月をかけた待望の新作アニメ映画「ももへの手紙」が4/21(土)に全国公開。4/1のUSTREAM番組「関西ウォーカーTV」で作品の見どころなどお話を伺った。(聞き手:関西ウォーカー玉置編集長、ライター菊地武司)
司会:本日のゲストは、4月21日(土)全国公開のアニメ映画「ももへの手紙」の原案・脚本・監督を務めておられます、沖浦啓之さんです。
司会:今日はイベントで大阪に来られていたそうですね。
沖浦:実は、去年末も「ももへの手紙」関係で来ていました。
玉置:大阪の交野市ご出身ですよね? 今日も交野というか枚方の取材を受けられていたそうですね。
沖浦:はい。「今、枚方がアツイ!」みたいな感じで(笑)。
司会:では早速進めていきたいと思います。まずは編集長から作品の感想を。
玉置:「ももの内面の変化、成長や細かな書き込み」と「下島のアニメ化の極限的な美しさ」が魅力的でしたね。
司会:これはどういうことですか?
玉置:まずすごく言いたいのは、やっぱり“もも”。いろいろ魅力的なキャラクターが出てくるんですけど、作品の冒頭から最後まで、ももの気持ちに集中させるような作りになっている。しかも微妙な心の揺れが細かく描かれていて。ドラマの中で、自然にももが成長というか、変化というか、それがものすごく細かく描かれていて。たぶん、観終わった後に「うーん、なるほど」と。いわゆる少年少女の成長と、一緒に時間を過ごしたという感覚が持てる。
司会:なるほど。
沖浦:言われているように、ももの内面の変化というか、細かいそういった部分を意識してやってましたね。ただ、それが観ている方に上手く伝わっているかどうかは不安もあるわけで。それが今の話を伺って、上手く伝わっているんだなと聞かせてもらえただけで大変嬉しいです。
玉置:あまり話が散らないように作られているなという気はしましたね。
沖浦:こういうこともやりたい、けどやったとしても本筋とズレることはなるべく外したりして。映画全体のリズムがあるので、そのへんも見てですけど。
菊地:脚本には時間をかけられたんですか?
沖浦:そうですね。全体的には覚えてないですけど、最終的な部分での練り直しも含めて結構かかってますね。
玉置:映画(企画)のスタートから8年経っているわけですもんね。でも、骨格というのはあまり変わっていない感じですか?
沖浦:そうですね。大まかなところは、当初考えたプロット通りにはだいたい作っています。けど、やっぱり細かい設定とか、そういった部分は大きく変わった部分もあり、そのままのところもあったり、という感じですね。
玉置:あと舞台が(瀬戸内海の)大崎下島で。NHKの朝の連続ドラマ「カーネーション」(現在放送終了)の主演の尾野真千子さんと脚本の渡辺あやさんがコンビを組まれていた「火の魚」という、09年にNHKで放映ドラマが再放送されてまして、その舞台がまさに下島で。「すごい島だなぁ」と思っていたら、「ももへの手紙」も下島が舞台で、僕的には二重構造になってしまって。しかも監督の下島の表現があまりにもすごくて、僕の中で下島ワールドが炸裂したんですよ。日本人にしかわからない、ある種の日本的な特別ななにかがある気がしたんです。下島には相当行かれました?
沖浦:「ももへの手紙」を作り始める前、瀬戸内海の島々を巡ったときに、大崎・下島にも立ち寄ったんです。そのときは漠然と見ていたのですが、今回、映画を作る時に具体的に必要な場所として、改めてじっくり見ていくと、さらに面白いというか、ただ観光で見ているのとは違う視点で見ることができて。
玉置:作品を観ていると、頭の中に地図が描けそうな感じがしました。
菊地:地図を作られていたんですか?
沖浦:そうですね、作っていましたね。大崎下島をモデルにしていますが、必要なディテールのひとつひとつは、瀬戸内海のほかの地域からも持ってきて、架空の島として作っているんです。その関係もあって、これはここにあって、あれはあそこにあって、というのを整理して作っておかないとごちゃごちゃになってしまうので。建物のひとつひとつは実際にあるものが多いんですけど、並びは再構成して、絵としてのバランスを見ながら作ったりしましたね。
司会:続きまして菊地さんの感想を。
菊地:「クライマックスで感涙」「作画のクオリティに圧倒」「ファンタジーとしての仕掛けの絶妙なさじ加減」が良かったです!
玉置:僕も試写会で泣きましたね。一般試写会に行ったので子どもたちがいっぱい来ていたんですけど、泣きましたよ。前の席のお母さんと子どもも泣いていましたよ。
菊地:それくらい心を打たれるものがありますよね。ただ、悲しいとか、勢いで泣かされたという感じではなく、すごくさわやかで、すがすがしい感じ。
玉置:そうですよね。
菊地:あとは作画ですよね。これはちょっとヤバいですよね、クオリティが(笑)。作画監督の安藤(雅司)さんの力ということだけではなく、井上(俊之)さんとか本田(雄)さんとか、錚々たる方たちが(原画で)参加されているので。
玉置:(UST的には)今のちょっと説明がいるんじゃないですか?(笑)
菊地:ちょっと必要ですかね(笑)。とにかくリアルなんですよ。僕が一番好きなのは、いく子さんのシブさ。ちょっと前にうつむいたときに(後で結わえた)髪の毛がちゃんと垂れてくるとか。案外、そのあたりって疎かにされがちなんですよね。
沖浦:そうですよね(笑)。
菊地:あとは笑いジワ。あれが嫌味にならなくて、逆に魅力になっている。単なるリアルでもなくて。影を一切つけていないにも関わらず、そこに存在している感じがすごく出ているというのがすごいなと。
玉置:僕は作品的にもすごく感動しました。でも「人狼」好きからすると、今作の明るさはちょっとショックだったんですけど。
一同:ショックだったんですか(笑)
玉置:いい方のショックですよ(笑)。この変化、何かあったんですか?
沖浦:直接的には…この直前までやっていた「イノセンス」という作品が暗いというか…。
玉置:哲学的でしたよね
沖浦:はい、重い作品で。完成品を観た時に、非常に…こう、生放送では言えない気持ちになりまして…。
一同:(爆笑)
玉置:マジですか(笑)。
沖浦:というよりも、元々明るい作品の方が好きなので。「イノセンス」ほどの作品に関わっちゃうと吹っ切れやすいというか、自分がやりたい作品というのを強く再確認できたという感じですね。
(その2に続く)