5/5に「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」が大阪で公開初日を迎えた。これを記念して、入江悠監督に、『SR』シリーズの“北関東三部作・最終章”について、関西ウォーカーの玉置編集長、「邦画の新たなマスターピースが誕生した」とこの作品を激賞する『ソウル・フラワー・トレイン』の公開が近づく映画監督・西尾孔志、映画評論家で本作宣伝担当でもある田辺ユウキが迫った。
※この原稿は2012年5/5に実施されたUSTREAM番組「関西ウォーカーTV」で配信されたインタビューを書き起こし、再構成したものです。
(その1からの続き)→その1:http://news.walkerplus.com/2012/0511/10/
西尾:シリーズ2作目までは「明日もがんばろう」というテンションだったのに、この3作目で「こんな展開になっちゃうの」と驚いた人も多いはず。
入江:2011年の今頃『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまないっ』が公開されたのですが、あの映画の編集作業は震災をまたいだ時期にやっていたんです。当時「映画館は節電すべきだ」という議論があった。でも僕はひとりで編集作業をしていたので、むしろ映画館に行って知らない人たちと一緒にスクリーンを眺めたいなと思ったんです。表現、娯楽、芸術がそういう風潮と計りにかけられる状況を見たのが、1、2作目との違いですね。作品的には「コノヤロー」という感じ。徹底的に闘いたかった。
西尾:クライマックスの大掛かりな長回しの撮影は、溝口健二映画、『地獄の黙示録』のような映画を僕ら世代の監督でいるとは、という衝撃でした。
入江:長回しをこのシリーズでやってきて、ひとつ自分の中で感じたことがある。長回しってテオ・アンゲロプロス、相米慎二などいろんな人がやっているけど、溝口健二(の長回し)が一番好きなんです。いとうせいこうさんとの対談でも喋ったんですが、気づいたら長回しになっていた。「登場人物に寄り添っていくうちにカメラがいつの間にかそこにあって、感情や空間を切り取っていた」という感じがすごく好きなんです。最近『近松物語』を見直したら、ちょっと似ていたんですよ。ただ溝口映画は超一流の職人スタッフがいて、超一流の俳優が演じています。あんな映画は今はもう作れない。
玉置:マキノ雅博監督の映画なんかは、遊郭などの複雑な構造のところでカメラが自然に動いていったりする。そういう、ややこしいところで長回しをしますよね。『SR3』も最後のフェスシーンで屋台とかが並んでいる、ややこしいところで自然に動きますよね。
入江:そうなんです。(スティーヴン・)スピルバーグなんかもよくやってますよね。ただ、最近の日本映画に関しては容赦のなさが減ってきていると思うんです。どういうことかと言うと、溝口健二の『赤線地帯』みたいに徹底的に追い込んでいくような視点が少なくなっている。深作欣二の『仁義の墓場』とか、そういう感じの映画をもっと観たい。
玉置:入江監督が責任編集を務めた書籍「SR サイタマノラッパー 日常は終わった。それでも物語は続く」(現在発売中・角川メディアハウス発行)も出ました。なかでも、映画評論家・森直人さんのメジャーとインディーズの状況論は読み応えがありますね。高橋源一郎さんとの対談もいきなり入っていて、おもしろい!
入江:いま、日本映画がどういうことになっているかが分かるような本になっています。森直人さんにも書いていただいて。高橋源一郎さんとか、僕が会いたい人に出てもらいました。
西尾:台本上、田辺さんの質問をパクってしまうんですが(笑)、この「日常は終わった、それでも物語は続く」というかっこいいサブタイトルにこめた意味を教えてください。
入江:シリーズの1、2は僕のなかで日常だったんです。そのなかでいかにラップを歌うかだったのですが、どこかで断絶が起こった。具体的には震災なのですが。それでも僕らは映画を作り続けなければならない。ラッパーはラップを歌い続けていく。だから「サイタマノラッパー以降」というサブタイトルも付けた。『サイタマノラッパー』は何ができて、何ができなかったのかを自分なりに把握したかったんです。
玉置:それにしても『SR』三部作は今回で終わりということですが、私的には、まだまだ終わってない気がするんですよ(笑)。
入江:それこそ「日常は終わった、それでも物語は続く」なんですけど、作り続けたいですね、このシリーズは。ただ、何度も言いますけど基本的には僕の貯金で作ってるので大変なんですよ! どこかにお金を出してもらうとB’z的なものが必ず入ってきちゃいますし(笑)。この『SR』に関しては誰からも頼まれず、無視されているところから作ったことを忘れたくないんです。
玉置:今回のクライマックスにはボランティアの人は多くのクチコミで来ているんですよね。だからある意味、(こういうことが)分水嶺(ぶんすいれい)となっていて、響きあってすごいシーン、すごい作品ができたと思います。だからこそ、私はもっとこういった作品が観たいと思った!
入江:そうなっちゃうと、もっと現象的な小さなスケールに戻すか、魂を売ってB’zが流れるしかなくなる。って大丈夫ですか、関西ウォーカーは、こんな話をして(笑)。
司会:それでは最後に、入江監督から視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
入江:僕の中ではこれでひとつの区切りをつけたい。これを撮り終わって、あまりにしんどすぎて倒れたんです。それくらい心をこめて作った。だから、お客さんがどういうふうに思うのか。それこそいろんな批判も出てきて欲しい。それを受け止めてからじゃないと次にいけないので、まずはいろんな人に観てもらいたいです。『宇宙兄弟』とかありますけど、ぜひ“ラップ兄弟”こと『サイタマノラッパー』を観て欲しいです(笑)。
(終わり・その1に戻る→http://news.walkerplus.com/2012/0511/10/)
【取材・文=田辺ユウキ】