ホンモノのようでホンモノじゃない!? 何の変哲もない(ように見える)写真作品をじっくり眺めていると、フシギな感覚に陥る。どこが変なのか、最初はわからなかったものが、段々明らかになっていく…。そんなフシギな写真が見られる展覧会、「トーマス・デマンド」展が東京都現代美術館にて5月19日(土)より開催中だ。
トーマス・デマンドは、構成写真の第一人者として有名な、ドイツ現代美術界を代表する作家だ。新聞等の写真をもとに、政治的・社会的事件現場の風景などを厚紙でほぼ原寸大に再現し、大画面で撮影したものが彼の作品の特徴。今回は日本における初の個展となり、初期作品から世界初公開となる作品を含む最新作まで、写真約30点と映像作品4点が展示。デマンドの活動が本格的に紹介されている。
デマンドが作り出す無機質で空虚感を感じさせる紙の世界は、現代社会に生きる私たちに“現実とは何か”を問いかけてくる。ついさきほどまで人がいたかのようなバスルームが表現されているのは、「浴室」という作品。壁や床に敷かれたタイル、入口の扉、シャワーカーテン、浴槽にはられた水の表面にまで、本来あるべき“材質感”がなく均一で、しばらく見ていると奇妙な違和感を覚える。
世界初公開となるのは、2008年に太平洋航海中に大嵐に襲われた豪華客船「パシフィック・サン号」をモチーフにした映像作品。事故から2年後にインターネットで事故映像が公開され、大きく揺れる船内の様子をとらえた内容が話題となった事故だ。紙でつくられたものたちが、ぎこちなく奇妙に動く様子は独特の世界。フィクション性がより強調され、デマンドの作品の真髄に触れられる。
これらの作品の背景は、話を聞かないとわからない。だが、見る人はその“妙なリアリティ”と“違和感”に「現実とは何か・虚構とは何か」を考えさせられてしまう。今週末は、そんなフシギな体験をしに行ってみては?【東京ウォーカー】