ほぼ絶版状態の「おきなわ文庫」が1人の若い女性編集者の熱意で電子書籍に!

東京ウォーカー(全国版)

今から約10年前に活動停止し、ほとんどが絶版状態となっていた「おきなわ文庫」が、このたび、電子書籍として復刊することが決定、5月20日、沖縄・那覇市内のホテルで、復刊祝賀会が開かれた。この「おきなわ文庫」は全部で96タイトル。電子書籍版は、ことし3月から少しずつリリースされ、5月11日現在で全16タイトル、6月15日(金)にさらに11タイトル追加され、今後も準備ができたものから順次リリースしていく予定。SONYが展開している「Reader(TM) Store」で購入が可能だ。

「おきなわ文庫」は、「多くの読書子のお力添えによって、小社の誇りある企てが完遂されんことを願う」という「発刊の辞」とともに、1982年5月15日、今から30年前の沖縄本土復帰記念の日に創刊した。

「八重山・島社会の風景」「近世沖縄の肖像」など沖縄の歴史を書きとめたものから、「沖縄戦を考える」「沖縄と中国芸能」「空手の歴史」「南の島の新聞人」「首里城入門」「ケービンの跡を歩く」など、文化・芸能・医療、さまざまな分野から見た沖縄が記されている、まさに文献的価値のあるシリーズだ。「おきなわ文庫」の第一期は、株式会社南西印刷(西平守栄社長)の出版部門から81冊刊行された。その後、同社が閉業、この事業を継続したいと願った富川益郎氏が単独で第二期を始め、多くの関係者のカンパや協力を得ながら「ひるぎ社」を立ち上げ、2001年までに計15冊を出版。だが、2001年を最後に諸事情で刊行がストップ、現在まで約10年の時が経過する中で、その貴重な文庫はほとんどが絶版状態となっていた。

そんな現状に危機感を覚えた一人の女性編集者が立ち上がった。この事業のために「株式会社おきなわ文庫」という社名で会社まで立ち上げてしまった、秋山夏樹さんだ。秋山さんは「昨年10月に初めて『おきなわ文庫』と出合いました。空港の土産品店にこの緑の表紙の文庫が並べられていたんです」と、その“歴史的瞬間”を回想。その後、「おきなわ文庫」を調べていく中で「そのポテンシャルの高さと、世の中からなくなっていく現状を知りました」と、この文庫の置かれていた状況を知った。

そこで秋山さんは編集者魂を発揮。「沖縄の歴史・文化を幅広く扱った『おきなわ文庫』を世に残したい、県内だけでなく県外の人たちにも広く知ってもらいたい」という2つの思いで電子書籍化に向けて動き出した。とはいえ、問題は山積みで、著者の連絡先すら分からない状態だったという。「それからは毎日、探偵のように調べ物をし、お見合いのように著者の先生方に会うという、探偵とお見合いの繰り返しでした(笑)」と苦労の日々を明るく振り返る。途中、「このシリーズを再び世に出すことがいいのか、悪いのか」とさまざま葛藤しながらも、初心を大事にして、ついにここまでこぎつけた。「『おきなわ文庫』の新しい一歩に立ち会えてうれしい」と、主体的に動きながらも、秋山さんはあくまでも“自分は影”で著者の先生たちを立てることを忘れない。そんな秋山さんの姿勢と、熱意が、96冊の“歴史的価値のある書物”を著した先生方を動かしたのだろう。

「おきなわ文庫電子版相談役」となっている琉球大学の高良倉吉教授は、「テーマや話題の豊富さ、執筆陣の多彩さなどの面において、『おきなわ文庫』シリーズは依然として、知や語りの面で魅力的な森だと思う。電子書籍という斬新な媒体を通して、『おきなわ文庫』のみならず、沖縄に関する優れた情報や蓄積がいつでも、どこでも、誰にでも自在に活用できるようになってほしい、と願う」とコメント。そして、「著作権を持つ数多くの執筆者と粘り強く交渉し、許可を得る必要があった。執筆者の中には故人となった方もおり、遺族のもとに足を運び、墓前に線香を上げることもあったという。これらのすべての行動は、「おきなわ文庫」の電子化に執念を燃やした編集人、秋山夏樹さんが一人で行った。彼女が『おきなわ文庫』復活デビューのプロデューサーであり、またマネージャーであった」と、秋山さんの功績をたたえた。

「おきなわ文庫」96冊の中には、オリジナルの本がたった1冊しか残っていないという貴重なものも多い。電子書籍化の作業は、閉じられている本を切り離す“断裁”から始められる。その後、スキャンしてPDF化、さらに「OCR」という光学式の文字読み取り装置にかけると電子書籍としてのデータに変換できるのだが、その過程で文字化けしてしまうことが多いという。そのため発売まで、2度、3度と校正作業を繰り返す。電子化を担当する近代美術印刷ソリューション事業部の金城由美さんは「貴重な本なので断裁してしまうのは心苦しい部分もあります」と苦笑いながらも、「作業の中で一番大変なのは校正作業。先生方の言葉を間違って出すことはできないので、念入りに繰り返します」と、社会的貢献度の高い仕事への自負心を見せた。

それぞれの分野の若い人たちの力で、「おきなわ文庫」発刊の辞の言葉にある“誇りある企て”が、さらなる高みへ向かおうとしている。【東京ウォーカー】

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