今作は、とにかく宮本浩次自身のプロデュース曲と、YANAGIMAN、蔦谷好位置それぞれのプロデューサーが手掛けた曲のバランスが素晴らしい。88年のメジャーデビュー以来、一度もメンバーは変わっておらず、21作目の今作でも熱量変わらず、常に新鮮で感動させてくれる作品を作り続ける彼らには脱帽である。
―今作はバンド感…、つまりシンプルな歌とシンプルなサウンドという感じが生かされた作品だと思います。
「『俺たちの明日』(07年11月発表シングル)っていうとこから、新しいレコード会社に移って、新しいスタッフ、新しいプロデューサーと共にやり始めたんですよね。敢えてですけど凄くプロデューサーに、丸投げじゃないですけど、全部アレンジしてもらって。『俺たちの明日』はYANAGIMANで、『笑顔の未来へ』(08年1月発表シングル)では蔦谷君にしてもらったし。もう5、6年前ですけど、そういうとこからスタートして。『STARTING OVER』(08年1月発表)、『昇れる太陽』(09年4月発表)というふたつのアルバムを、割と敢えてプロデューサーに任せてやるっていうのを、思い切ってやっていた時期だったんです。スタートラインですね。で、次の『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』という前回のアルバムで、ちょっと色々打ち込みのものを復活させたりとかして、それまでの丸投げとは又違う変化を出せたんですね。打ち込みっていうのは、私『good morning』(2000年4月発表アルバム)以来です。その後は、久しぶりにバンドでシンプルにやりたいなと思って。『東京からまんまで宇宙』という曲はバンドでセッションっぽく本当に一発録りに近い形で録ったんですね。バンドでやるというスタイルを久しぶりに僕らやったつもりになっていて。ただですね、今年に入ってからの『大地のシンフォニー』とか『約束』に関して言うと、ハンドマイクで自分が歌っているイメージっていうのが凄くあって。『約束』という曲で絶対やりたかったのは、45歳の男性が真っ直ぐ歌うという事だったんです」
―今日、お伺いしたい話として、先ほども宮本さんもお話してくれましたけど、プロデューサーとの関係性の変化というのがあるんですね。それは前回のインタビュー時にも、「悲しみの果て」(96年4月発表シングル)から始まった土方(隆行)さんや佐久間(正英)さんという初めてプロデューサーが付いたポニーキャニオン時代の話をお伺いしたんですけど。色々な葛藤があったという…。
「あぁ~、ありましたね~。『悲しみの果て』なんか、バンドで下北のライブハウスで結構やっていた曲だったんで、音にする時、随分やっぱり色々ありましたよ。結果的にはいいストレスだったんですけど…。当時の自分の中で大冒険でしたよ。佐久間さんとやったものも大冒険というか…、びっくりする事多かったですけど。ストレスというのが、多ければ多いほど、結果的にいい事が多いですね。当時は、『いや~、もう終わりだ…』って思いました。ちょうど、オアシスの『モーニンググローリー』っていうアルバムが出たちょい後で、本当に伸び伸びやっているアルバムというかさ。(鼻歌で)『♪ロックンロールバンド♪』っていう曲があって、4曲目くらいに入っているお兄さんのさ、どっちが何とかギャラガーか知らないんだけどさ。お兄さんの方のギャラガーが作ってる曲、最高なのよ。それと『悲しみの果て』の音源と比較したりしてさ。ただ、『俺は売る!』という気持ちがあったから。一回、(ソニーとのメジャー)契約が終了した後の1枚目だったからね。当時は20代後半だったんですけど、今回はもうちょっと自分がこういう風にしたいというイニシアチブがあったと思うんですよ。『悪魔のささやき~』で始まった流れの一環なんですけど。必ずアルバムを作ると凄く反省もするし、次はこういう風にするというのをある程度、決めていくんですね」
―今作、何よりも素晴らしいと思ってるのは、「穴があったら入いりたい」や「七色の虹の橋」、「Darling」といった完全に宮本さんセルフでプロデュースしている楽曲が、2人のプロデューサーの楽曲と完全融合している事なんですね。同じテンションというか…、互いに刺激しあって切磋琢磨し合えているというか…、馴染んでるというとあれですが…。バランス良く、爆発し合えてるのが素晴らしいです。
「それはね、多分、佐久間さんとやった時というのは初めてプロデューサーとやってるでしょ。それってさ、何が何だかわかんないわけ。それは、そのつもりでプロデューサーとやるって決めてたわけでもあるし。『STARTING OVER』と『昇れる太陽』に関していうと、おそらく、まな板の上の鯉じゃないけど…、歌と歌詞に関しては自分でやっているんだけど、演奏に関していうと自分たちの自我というのはほとんど抑えている。で、今回は、そうじゃないものにしたいっていう事なんですよ。この曲だからYANAGIMAN、この曲だから蔦谷さんという選択をある程度、こっちがしているわけよ。その違いは、でかいです。バンドっていうのは結局シンプルなんで」
―とにかく、ずっとずっと、このメンバーで続けられているというのは、凄いことだと思います。
「そうだね、健康状態のこともあるからね。4人とも健康じゃないと。ストーンズも初期の段階でメンバーが死んじゃってるからね。同じメンバーで、どうやって音楽的な冒険をしていくかって事ですよね。そうじゃないと、全く意味がない。ただの烏合の衆じゃないけど、ただのお友達になっちゃったら、まずいんで。どうやって4人で冒険をしていくかって事だと思います、はいっ」
【取材・文=鈴木淳史】