東日本大震災を経験した79歳の母親と、テレビディレクターの息子による書籍「生きてやろうじゃないの!」(1365円)が7月10日(火)、青志社より発売される。
この書籍は、日本テレビの人気バラエティー「所さんの目がテン!」の総合演出などを務める武澤忠氏が、東日本大震災で被災した福島県に住む母・順子さんを追ったドキュメンタリー「リアル×ワールド ディレクター被災地へ帰る 母と僕の震災 365日」(2012年3月、日本テレビ系で放送)の中で紹介された順子さんの手紙を基に構成された。
この手紙は、誰に見せるでもなく東日本大震災が発生した2011年3月11日から順子さんが綴っていたもの。例えば、手記には次のような記述がある。
「3月11日…あの時を振り返って、咆哮し、大地を襲った海は、本当にこの海だったのか。 今は静かに潮騒の中に、白い小さな波頭が見えたっけ。悠々と流れていく雲よ お前は何を見ていたの 小さな蟻のように人々が もがき苦しむさまを 黙って見ていたの?」
震災発生直前に不慮の事故で夫に先立たれ、地震により発生した津波で家屋は半壊、絶望の中で順子さんがつづったその日記には、決してカメラの前では語れないような、さまざまな苦悩、葛藤、不安、悲哀の声が並べられている。
ただ、順子さんの気持ちは折れなかった。「ただよう雲は あの日の雲ではないだらうか 白い雲の群団が 悠々と流れる 海も生きている 海鳴りをひそめて がれきに埋まった田んぼには 塩水に負けず雑草が生き延びた 虫も生きている ならば人も生きなければ」。生き抜くことを誓う。
これまで文章を書くような仕事に一切携わってこなかったが、順子さんの言葉にはどこか読む者の心に迫る、何かがある。編集を担当した青志社の久世和彦さんもその文章に魅せられた一人。久世さんは「震災の日記という枠を超えたお母様の順子さんの日記は、情感あふれる詩的な文章で溢れています。この日記を読んだ人は、きっと古き良き日本の母の姿を思い浮かべることでしょう」と言う。
彼は忠氏との出会いを振り返り、「『人生をかけて、つくります』著者の武澤忠さんが、番組企画書の最後に記した一文です。単行本企画の資料としていただいた『リアル×ワールド』の番組企画書。この一文で私は出版をお願いしようと決意しました。私も、人生をかけて作るような本を世に出してみたい、と」と、編集者魂が揺さぶられたそう。
そして、この本の編集に当たり、久世さんは順子さんの著書というスタイルではなく、忠氏に“総合演出”という立場をお願いする。「出版社の編集者では思いつかないような、テレビマンの視点による構成で作ってみたかった」からだ。
書籍では、番組の舞台裏を赤裸裸に綴った忠氏の取材日記を織り交ぜ、被災家族の1年の軌跡をたどる。放送された番組では、時に自分の嗚咽まで拾ってしまうほど、涙を流しながらカメラを回していた忠氏。番組からも順子さんと忠氏の気持ちが痛いほど伝わって来たが、この書籍には、それ以上の説得力を持って読み手の胸を締めつけるパワーがある。【東京ウォーカー】