ヤン監督×安藤サクラが映画「かぞくのくに」<8/11(土)公開>を通して伝えたかったこととは!?

関西ウォーカー

1950年代から始まった北朝鮮への帰国事業を背景に、25年ぶりに病気治療のため3か月間だけ日本へ戻ってきた兄と日本に暮らす妹による家族のドラマを描いた「かぞくのくに」。今回、自身の実体験を基にした本作のメガホンをとった在日二世のヤン・ヨンヒ監督と、兄を迎える妹のリエを演じる安藤サクラが映画への思いを語ってくれた。

─ヤン監督はこれまでの作品「ディア・ピョンヤン」(’05)と「愛しきソナ」(’09)も、ご自身の家族を題材にしたドキュメンタリーを発表されてきましたが、今回は初のフィクションですね。

ヤン・ヨンヒ(以下:ヤン)「前作2本を作るのに15年間くらい自分の家族にカメラを向けていましたけど、そこで話してくれることはたかが知れていて、カメラの前で話せないことがたくさんあるんです。カメラの前で語ってくれない話のほうが核心に迫っていたり、絶対に誰にも言えない話のほうがドラマチックだし、作品のネタとしても興味深いものでした。その“ぶっちゃけ話”をオープンにしたくて、『ディア・ピョンヤン』や『愛しきソナ』を撮影している時期に、日本に戻ってきた兄が同級生やむかしの恋人に会っているところに付いていったんですが、それを観て“映画みたい!”と思って、その時からこのエピソードを映画にできたらなぁと思っていたんです。だけど、『ディア・ピョンヤン』を作ったことにより、北朝鮮への入国を禁止されて家族にも会えなくなって、それでも作品を作りたいのかと自問自答もしていましたね。極端なことを言うと、北朝鮮にいる兄たちに迷惑がかかるから映画を作るのをやめるのか、自分が映画を作ることで兄たちが強制収容所に送られてもいいのかと自分に問いかけるんですけど、そこでやめちゃうと今までと同じじゃないかって。北朝鮮に暮らす人は罰則があって言いたいことも言えないけれど、私は日本に暮らしながら、北朝鮮のシステムに従うのはナンセンスだなとも思ったんです。家族に会えなくはなってしまったけれど、むしろ言いたいことを言うぞっていう覚悟がより強くなりました」

─今回のお話をいただいて、安藤さんはいかがでしたか?

安藤「実は今回のお話をいただく前に『ディア・ピョンヤン』を観ていて、北朝鮮といえばテレビで観るイメージくらいだったので興味深さもありましたけど、なによりヤン監督の家族の魅力に惹かれましたね。帰国事業とかむずかしいこともありながら、家族は家族なんだなと改めて思ったんです。今回のシナリオも監督の実体験がもとにはなっているけれど、どんな家族を映画の中で作っていこうかなとか考えられるいい意味での“余白”もあって、いろんな表現ができるんじゃないかなと現場が楽しみでした。あとは、監督と監督のモデルでもあるリエ、私との距離感はどんなふうになるんだろうと現場で考えたり…。北朝鮮についての勉強をするというよりは、お兄ちゃん役の(井浦)新さんといい関係を築くことが大切だなと思っていました」

ヤン「私は一度も“北朝鮮の映画”を作ろうと思ったことはなくて、あくまでも私のおもしろい家族を見てほしいと思ったんです。いろんな国のいろんな家族の話があって、うちの家族を描こうと思ったら、たまたま北朝鮮が出てくるから、悲しいかなっていうだけで(笑)。リエはなにも知らずにこの家に生まれ、たまたま北朝鮮に縁のある家族なだけで、大好きなお兄ちゃんと離れ離れになってしまった、女の子の話なんですよ。私も若いときは“なんでこんな家に生まれたんだろう”とかいろいろと悩んでいましたけど、今となれば“私の家族っておもしろい”と思えるようになりましたし、誰しもなにかしらを背負っているんですよね。自分とは違う境遇にいる人とその荷物を見せ合うことで、きっと世界はまた広がるんじゃないかなと思っています」

─安藤さんはりえという“1人の女の子”を演じるにあたって意識していたことは?

安藤「とにかく“お兄ちゃん”のことですね。私はただまっすぐにお兄ちゃんのことを見ていよう、それができれば家族との関係性も表現できると思ったんです」

ヤン「撮影の最初のころに、サクラちゃんがふと“あ、そっか。りえはお兄ちゃんのことを見ていればいいんだ”って言ったんです。私も“これで大丈夫だ”と思いました。この兄妹がほかと決定的に違うのは、一緒にいられる時間が限られていること。いつでも会えるんだったら、あんなに一生懸命にりえはお兄ちゃんを見ないですし、ただでさえ時間が限られているのに、急に帰国が明日になったなんて言われたら怒りますよね。サクラちゃんからの勘きのよさもあって、バッチリとリエになっていたと思います」

─ところで…兄の監視人が自宅に上がるシーンで、リエがその監視人がコーヒーを飲む姿を見て思わずクスッと笑っているのは、なにを象徴しているんでしょうか?

ヤン「あんまり細かいことは現場で言うタイプではないんですが、監視人が出されたコーヒーに砂糖とミルクをたっぷりと入れて、グルグルかきまぜて一気に飲み干すという一連の動きにはこだわりました(笑)。コーヒーをブラックで飲むのは先進国の習慣で、おいしいコーヒー豆だからそれができるんですよね。監視人は一見、威圧感があってふてぶてしくて、りえもそれに威圧されているんだけれど、彼にはコーヒーを飲む習慣がなくて、そういった飲み方をしているのを見たとたんに“なんだ、ただの田舎者じゃないか”って(笑)。りえと監視人のパワーバランスの微妙な感じを出したかったんです」

─では最後に、映画の見どころをお願いします!

安藤「そこは監督におまかせします!(笑)」

ヤン「(笑)。北朝鮮や帰国事業の背景を分かるに越したことはないですけど、あくまで映画なので理解をしようとするのではなく“感じて”ほしいですね。みなさんの家族とは決定的に違う部分もあると思うけれど、兄妹や母親の愛とか共通する部分もあるので、あくまで“いち家族の兄と妹の物語”でパーソナルなお話として楽しんでいただければと思います」

【取材・文=リワークス】

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