今年2月、中村勘太郎は東京・新橋演舞場で六代目中村勘九郎を襲名。9月、大阪松竹座で襲名披露興行が行われる。記者会見では、父・勘三郎は参加できないが、坂東玉三郎は「必ず守る」と言ってくれたと話し、「その言葉を強い糧に、1カ月しっかり務め上げたい」と優等生のお答え。が素顔は、テーマパークとお化け屋敷が大好きな、30歳の新米パパ。会見で黒スーツにネクタイ姿だったのに、若い人たちも読む関西ウォーカーだから、とわざわざ着替えてくれた。心配りに感謝です!
Q:東京の襲名披露は大変だったのでは?
「いいえ、大変じゃなかった。すごく楽しかったですよ。『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』はずっと踊っていたかったぐらい。それに、あの大先輩たちが、普段やらないような役で出てくださるんですからね。襲名の時しかできない。ビバ! 襲名。サイコーですよ!(笑)。今回も父の当たり役で、いつかやりたいと思っていた『瞼の母』の“番場の忠太郎”ができる。小さい頃からボクに心構えとか教えてくれた玉三郎のおじさまとご一緒できるので、ワクワクしています。『襲名狂言に何をやりましょう』と父がたずねると、ボクとこれがやりたいと言ってくださったそうです。うれしいですね。大阪では1978年以来の上演なので、初めてご覧になる方も多いと思います。いつの時代も色あせない作品、純粋に芝居を楽しんでいただければ」
Q:もう1本の襲名狂言「雨乞狐」では、ひとりで6役演じられますね。野狐や雨乞巫女、狐の嫁に提灯まで!
「3回目ですが大変です。博多公演では、じん帯断裂して、正座ができなくなりました。1日だけの公演のために作られた作品なので、ひと月やるのは大変。6年前にそう思ったので、今回はもっと大変でしょう(笑)。でもね、すごく好きな作品なんです。最初からテンション高くて、中盤にどっしりした重量感のある踊りがあり、最後にまた狐で踊る。これをリクエストしたのはボクです。“勘九郎狐”と呼ばれる、勘九郎に当て書きされた振りなので、絶対やりたかった。これ、きっと大阪の方好きですよ! テンション高く、熱く盛り上げてくれるお客様がいないとできない作品。“熱”で助けられると思うので、大阪でやりたい、と思ったんです。9月は雨、降らせますよ。とか言いながら、1カ月晴天だったらどうしよう(笑)」
Q:初めて歌舞伎を観る人は、昼の部と夜の部、どちらを観ればいいですか?
「6000円の三等席で、両方観て頂くのが一番いいと思いますけど…。どっぷり人情劇を観たいと思う人は昼、踊りが好きで派手好きは夜。『女暫(おんなしばらく)』なんて、色の使い方なんか、もう現代人じゃ出せないようなものです。歌舞伎は目で楽しむこともできるから、そこを楽しんでいただくものアリかな。『雁のたより』は大阪の芝居ですしね。歌舞伎は触れていただくことが重要だと思うし、カッコイイなと思ってくれたら一番いいですね。だから、いつでもいいから一回観に来てほしい。食わず嫌いをしないで。食べてみてまずかったらしょうがないけど、でもボクたちがやる時は、マズイものは出さないよ!」
Q:襲名って、誰かに決められるのですか?
「勧められるんです。継ぐのは自由。どうですか? じゃあ、やりましょうって。2005年に父が勘九郎から勘三郎になったとき、勘九郎襲名も一緒にという話が出たんですけど、まだ早いと思って丁重にお断りしました。ボクは父と同じようなことはできないし、同じになっちゃつまらないし。でも勘九郎という名前は父がずっと名乗っていて、そこには必ず魂が入っていると思うんですね。その魂を勘太郎に入れたら、勘九郎になった、みたいな感じ。勘九郎という名前と一緒に生きて行く、一緒に歩んでいこうという感じですかね。ただね、今、もし誰かが勘太郎を継いで、その同じ場にいて、勘太郎さんって呼ばれたら、振り向く可能はありますね、まだ(笑)」
Q:プロを意識したのは?
「中学3年の時、自分で歌舞伎の道を選びました。ほかに興味がなかったから。好きだったんです、もとから。でも好きじゃなかったらできないですよ、芝居なんて。父が「どうすンだこのあと。やるのかやらないのか、ウチは自由だよって。お前ら二人ともやらなかったら養子をとるし」って、ちゃんとしっかり言ってくれたので。あ、これが選択なんだなって。その時はやめろって言われてるような気がしてね。やらせてくださいって言いましたけど」
Q:止めたくなったことはない?
「自分の中で、止めた方がいいんじゃないかって思ったことはしばしばあります。壁にぶち当たったりとか、あ~向いてないのかな、じゃあ止めた方がいいかなって思ったり。でも、負けず嫌いだから(笑)。何クソっと思いましたね。じゃなかったらヤメてるな、多分。やりたいものがやれないことが多い世の中で、自分のやりたいものを仕事として、それでご飯を食べていけるのは幸せです」
※(その2)に続く
http://news.walkerplus.com/2012/0903/22/
【取材・文=ドルフィン・コミュニケーション】