沖縄・那覇市出身の写真家・山田實氏の作品を一堂に集めた企画展「山田實展 人と時の往来―写真でつづるオキナワ」が9月11日(火)より、沖縄県立博物館・美術館で開催される。期間は11月4日(日)まで。
山田氏は、1918年に沖縄・那覇市で生まれた。戦前の那覇市で育ち、戦争の世紀とも言われる20世紀を経て今日まで時代の隆盛を見つめ続けてきた。二・二六事件直後に大学進学のため上京、就職先の勤務地だった満州で戦争のため軍に召集され、ソ連軍との交戦中に沖縄壊滅の知らせを聞いたという。
そして敗戦後2年間、極寒のシベリアで飢えと過酷な労働に耐えて生還。1952年に沖縄に帰ると間もなく、桜坂に写真機店を開業した。店を経営する傍ら、変わっていく沖縄をカメラに記録するようになる。戦後の貧苦の復興期に、写真倶楽部を興して二科展や沖展に関わるなど、戦後の沖縄写真界、芸術文化の黎明期を支えた1人だ。山田氏の写真は、視点が鋭いばかりではなく、子どもを写した作品でも、どこか“力強さ”を感じさせてならない。
同展では、山田氏に関する資料や写真とともに人物に迫りつつ、山田實という“フィルター”を通した「沖縄」の姿を浮かび上がらせていく。すでに戦前の価値観や風景を知る人も少なくなってしまった昨今、山田氏の刻んできた記(しるし)から、私たちが汲みとるべきは何か、私たちが失ってきたもの、未来へ遺すべきものは何かを考えさせる企画展となっている。
会期中は、最初の週末にあたる9月15日(土)に、山田氏が来場。企画ギャラリー内でギャラリートークを繰り広げる。戦争を経験し、戦後の復興期を過ごし、今も生きる山田氏が見てきた沖縄を、彼がどう表現するのか、楽しみだ。
また、9月22日(土)には、同展担当学芸員・大城仁美氏によるキュレータートーク、10月6日(土)には、作家・大城立裕氏、写真家・金城棟永氏、写真史研究所研究員・仲嶺絵里奈氏、批評家・仲里効氏をパネリストにシンポジウムも開催される。
貴重な写真や資料の数々、そして、山田氏本人の口から直接「沖縄」の変遷を聞けるという、何ともぜいたくでまたとない写真展となりそうだ。【東京ウォーカー】