映画「希望の国」園子温監督インタビュー(01)「福島の皆さんの表情は一向に復興していなかった」

関西ウォーカー

09年公開の「愛のむきだし」以降、強烈な個性とメッセージを放つ作風が俄然注目を集めている園子温監督。ヴェネチア国際映画祭で高い評価を受けた「ヒミズ」に続いて、10/20(土)に公開される「希望の国」は、東日本大震災から数年後を経た日本にある架空の地方都市・長島県を舞台に、地震によって発生した原発事故で生活が一変させられた人々の姿を描く、社会派エンタテインメントだ。今回キャンペーンのために来阪した園監督を本誌の玉置編集長が直撃。映画の話題を中心に、アートや音楽、3.11以降の表現について語り合った。

玉置編集長(以下T):「ヒミズ」でも、津波の傷跡がストーリーとリンクして劇中で描かれていました。今回はテーマが“原発”ですね。

園監督(以下S):「ヒミズ」は3月11日から2ヵ月後の5月に撮影しました。地震による津波と原発は、両方がものすごい衝撃でした。報道では原発の話と津波の話は、よくセットで語られることが多いですが、時間がたち落ち着いて考えてみると、それは「違うぞ」と思ったんです。たとえば被災地で取材をしながら、津波被害のすさまじさを目にし、なかなか復旧作業も進まないだろうなと思いながらも、時間が経つほどに少しずつ被災地の皆さんの表情が復興してきていたのを感じました。でも福島の皆さんの表情は一向に復興しないというか顔が暗かった。福島では何年たてば収束するのか、一体いつ終わるのかもわからない事故が起きてしまったんです。「ヒミズ」の撮影が終わったときに、お世話になった関係者へのお礼参りのために石巻市へ行きました。そこから東京へ戻る前に福島へ立ち寄ったんです。そこで現地の状況を目にして、他の被災地との違いを認識しました。「ヒミズ」の次は“原発”がモチーフになるということは、なんとなくわかってはいましたが、そこで決定的に“原発の映画を撮ろう”と思い、去年の初夏の頃から取材を始めました。

T:福島県内でも場所はいろいろあると思うんですけど、アーティスト集団「Chim↑Pom」が福島第一原発の直近で撮影をしていたことが話題になりました。警戒区域である原発から20kmのラインというのは、やっぱり印象が強くて。圏内と圏外をわけるラインがありますが、日本ではあんな光景を見ることはありませんよね。NHKで放送された監督のドキュメンタリーを見たんですが、福島県相馬市の、まさに普通の民家のところに、そのラインがあって、横が畑でその境界より外には、何も植えられていない状況が記録されていましたね。

S:取材の頃は、どんなストーリーにするのかを決めていなかったんですよ。とにかく「原発の物語」というテーマがあって。取材を続けていくうちに、20km圏外ギリギリに住む鈴木さんに出会いました。その頃はまだ一部解除もないので、鈴木さんのお宅の、庭の半分に花が咲いていて、半分が枯れている。その光景を見て「これはただ事ではないな」と。この光景の不条理さはすごいなと思いました。そのときにはじめて、「20km圏外のギリギリで暮らす家族の映画にしようと」と気付きました。僕は取材を続けていて、ずっと圏“内”の映画なのかなと思っていたんですけど、でもこのギリギリのラインを境に向こう(圏内)はゴーストタウンですよ。無人の街が永遠と続くなか、立ち入り禁止の看板が立っていて、そこからこっち(圏外)は、住んでいる人がいてというね。映画ではこのラインのギリギリのところを描けばいいというところに行き着いたわけですね。それからストーリーが生まれてきました。

(インタビュー02へ続く)http://news.walkerplus.com/2012/1019/37/

【取材・構成=関西ウォーカー編集部】

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