玉置編集長(以下T):劇中ではでんでんさんや筒井真理子さんが演じている20km圏内に住むある一家が、「ここには、いるな」ということで、車に乗せられて、避難場所に移されますよね。
園監督(以下S):映画の中でも描いていますが、実際に皆さんは「2~3日で帰れるから」と言われたそうです。2~3日で帰れるからということで飼い犬は、鎖につながれたままで避難されましたから。それが全然帰れない状況になってしまった。あまりにもヒドい話ですが、避難する1日前まで、圏内と圏外をわけるラインは2軒向こうだったという話も聞きました。最初に政府の人がきて、「ここから」と言われて、みんなホッとしていたんですけど、翌日には、「やっぱりこっちだ」って2軒を飛び越えて、ラインが変わったそうです。「だから君たちは避難してくれ」と。なんて曖昧なんだと呆れてしまいますね。その判断で一生家に帰れなくなるなんて、ありえないですよ。そういう曖昧な線引きで、みんなが不幸になっていく。今回は放射能の問題もかなり深刻ですが、そこにまつわる国家の力も恐ろしいなと実感しました。
T:劇中で夏八木勲さん演じる泰彦が、村上淳さん演じる息子の洋一に対して“杭の話”をしますよね。「今回の原発事故のことだけじゃなくて、常に“杭”というものがこの世にはあるんだ」というセリフが印象的でした。
S:そうです。どの時代にもあると。それはもしかしたら韓国と北朝鮮が38度線で分断されたときかもしれないし、たとえば日本ですと戦時中に息子に赤紙が届くということがありました。泰彦が洋一と彼の妻・いずみに「もうお前たちは自分たちで考えるしかないんだ」といいますが、そのシーンを描いている時の、僕の頭の中には詩人の金子光晴のある話が思い出されていて。戦時中に、彼の息子のところに赤紙がきたそうですけど、金子は葉っぱをいぶして、その煙を息子に吸わせてから、身体検査に向かわせたそうです。結果、息子は不合格になって、それをみんなで赤飯炊いて喜んだっていうエピソードがあります。当時の隣近所の人が聞いたら「非国民」ということになりますが、彼らは、反戦という気持ちよりも、息子を奪われたくないというただそれだけのために、非国民と呼ばれようが、なんだろうが、自分のもとから息子を手放さないために救ったんです。いろんなやり方で“杭”に対して、守り方があるんだなと思いましたね。
T:泰彦は息子夫婦に有無を言わせず「行くんだ」と避難するように告げますよね。息子の洋一は特にお父さんへの想いがあって「行きたくない」というシーンが強く心に残りました。避難することで、周りからどう見られるかというのも、考えてしまいますよね。洋一と神楽坂恵さん演じる身重の妻・いずみは、劇中で原発事故が発生した長島県の近隣地域に避難します。その街の中でも、放射能から身を守るために苦悩する若い夫婦に対して、周りの人は「何をやってんだ」と奇異な目を向ける。そんな状況はリアルにあるということですよね。
S:そうですね。取材を重ねることで想像力が生まれ、福島県でも被害の少ない地域から県外へ引っ越して、公園デビューしたお母さんが、放射能の話題を口にしたときに、他のお母さんから「そういうことを話題にしないで」という圧力もあるわけです。取材を重ねていて「じゃあもっと極端に、防護服まで着てる人がいたらどうなんだろう」と考えて映画の中でも描きました。取材の中から、放射能に対して、そこに放射能があるにも関わらず、それをなかったことにしようという、そういう空気感をどうやって出せるかなと思ったときに、防護服をきて、街を歩く妻というシーンが生まれたんです。
(インタビュー03へ続く)http://news.walkerplus.com/2012/1019/36/
【取材・構成=関西ウォーカー編集部】