映画「希望の国」園子温監督インタビュー(03)「原発事故を10年後に映画で総括するなんて待ってられない!」

関西ウォーカー

玉置編集長(以下T):劇中で身重のめぐみが「これは見えない戦争だ」というセリフを口にしますが、戦時中というのは、言いたいことが言えないわけじゃないですか。風潮に逆らうことは言いにくい状況だと思います。僕はその中で、アートに何が出来るんだろうと常々考えていますが、たとえばChim↑Pomが展開したパフォーマンスや映像作品は、その表現の仕方の一つでした。今回、園監督が真正面から“原発”を撮るということで、制作費を集めるのが大変だったと聞きましたが。

園監督(以下S):そうですね。現在の日本で原発をテーマにした劇映画を撮るのは至難の業でしょうね。結果、撮影できましたが、日本だけの資金では完成できないということで、海外からの出資を募ることになりました。まさか海外との合作映画をこの映画で始めて制作することになるとは情けない状況です。

T:監督の中では、海外資本が入った作品は始めてだったんですか?

S:「希望の国」は日本人のためだけに作ろうとしていたので、海外からの出資の話があったころは、合作というのが自分でもピンと来なかったですね。

T:先日NHKで放送されたドキュメンタリーの中で、イギリスのプロデューサーの方が「我々が参加することで日本の現状を知りたい」と言ってましたよね。

S:奇妙な感じでしたね。中国やドイツからも出資の申し出があったんですけど、僕はとにかく、低予算でもいいから、早く作って早く公開したいという気持ちでした。みんなの声にじっくり向き合っていると、どうしても時間がたってしまうので、途中で切ってしまったんです。それで台湾とイギリスとの共同制作ということになりました。

T:クランクインされたときは、想定されてる制作費は集まってなかったんですか?

S:とにかく仕上げに間に合わせる感じで、製作陣が最後まで調整してくれていました。

T:9.11の同時多発テロ発生後のアメリカでは、割と早く、事件が映画のモチーフになったように思います。ただ日本の場合、実際に起きた事件、たとえばオウム事件などは、森達也さんによるドキュメンタリー映画「A」「A2」はありましたが、フィクションで描こうとする作品は、なかなか出てきていない印象があります。園監督はこれまでの作品で新興宗教を題材にされたりしていますよね。今回の原発事故は未曾有の出来事でしたが、それがなかなか劇映画のモチーフにならない状況はいかがですか?

S:たとえば日本で取材を受けていると、いろんな方から「いまなぜ福島の映画を撮るんだ」という質問が来るんです。

T:「なぜ」?

S:聞かれた僕も「えっ!?」って思いました。海外で取材を受けていると、まずそういう質問は出ませんね。おそらく海外の記者自身も、映画として描かれて当然だと思っているんじゃないですか。「なぜいま」というのは彼らの質問条項に入ってなくて、そこは海外と日本の違いなんだなと感じました。たとえば「ハートロッカー」みたいに、結構な予算をかけて、現在進行形の戦争に関して、ちょっと冷ややかに、シニカルに描いた映画もありました。そしてそれがアカデミー作品賞を取ってしまう。それを日本に置き換えてみれば、たとえば東宝の拡大系で原発映画を撮ったみたいな話だと思うんです。そんなこと今の日本では絶対にありえないですから。「なぜいま福島か?」という質問の後ろには、「もう少し時間が経ってから撮ればいいんじゃないですか」という意見も含まれているように思います。でも僕としては、じっくり腰を据えて10年後に総括する映画を撮ってどうするんだと。待ってられないよという気持ちがあります。いま起こっていることに対して、非常に警戒心がある。日本でもアートの世界では原発に関してバンバン発信しているのに、劇映画がなかなか発信できないというのは本当に嘆かわしいと思っていましたね。

T:僕は監督の姿勢にとても共感していて、この作品が公開されることは、胸にグッとくるものがありますね。そういう意味では大林宣彦監督の「この空の花」という映画が今年公開されましたが、あの作品の印象も僕の中では強くて。極論すると、現在の邦画で園監督の「希望の国」と、大林監督の「この空の花」以外に、原発について描いている劇映画は少ないなという気がしましたね。今回の原発事故がある以前から、“原子力”に対して、あまり触れられないという状況もあったのかなとも思います。

S:僕自身にもそういう反省があって、忌野清志郎がタイマーズを結成して、原発の曲を作ったりしていたときも、「ロッカーだなぁ」と思うくらいで、強い関心を惹かれなかったわけですが、原発事故後には、もっと耳を傾けておくべきだったと感じましたね。

(インタビュー04へ続く)http://news.walkerplus.com/2012/1019/35/

【取材・構成=関西ウォーカー編集部】

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