映画「希望の国」園子温監督インタビュー(04)「大事なのは自分の中から素直に出てきた発想」

関西ウォーカー

玉置編集長(以下T):今回の映画の結末に関しては、ドキュメント的に撮っているというよりは、ずっと僕らの中に蓄積されていた“不穏”がまさに絵になったような印象を受けました。事実の積み上げではないところに、映画の凄さを感じましたね。事故当時の映像を我々は大量に見ているわけじゃないですか。当時を振り返る番組も多いですし、でもそこでは得られない何かのタガが外れたような衝撃を映画から受けました。

園監督(以下S):いつの間にか空想の部分も描いているんですけど、自分では気付いていないんですよね。「冷たい熱帯魚」でモチーフにした埼玉愛犬家連続殺人事件では裁判記録だけを頼りに取材を進めました。その記録を読んでいるうちに、いつの間にか、吹越さん演じる、主人公の社本という実際には存在しなかったキャラクターが生まれました。シナリオ作りではそういう発想を待つんですよね。アイディアが出てくるまでは、とにかく事実を取材するだけして、いつのまにかシナリオに書いているという感じです。一番大事なのは、自分の中から素直に出てきた発想です。

T:特に映画の終盤は「渚にて」や昔のSF映画を彷彿させる映像でした。

S:ありましたね。いや特に20km圏内の光景はSF映画ですよ。取材でも、これが現実なのかとビックリすることが多かったですよ。まだまだ被災地について自分が作れる映画はあります。「希望の国」はとにかく、緊急で製作しましたから、これは2012年型の原発映画であって、次に出すのは違う形の映画になりそうですね。たとえば、僕が福島で見た光景の中で強烈なものがいくつかありました。たとえば20km圏外ギリギリのところにゲームセンターが立っていたんですよ。圏内は完全に無人の街ですが、そのゲーセンは営業中で。店の2階でセーラー服を着た女子高生たちが、ゾンビのシューティングゲームをして遊んでるんだけど、ゲーム機の向こうは無人の街ですよ。だからギリギリのところにゲーセンが立ってて、ゾンビの背景にあるゲーム画面が、その画面の外にある光景とまったく同じというね。窓の外のゴーストタウンと、ゾンビゲームの中の街が似ていて。のんびりした風景の中で、僕は「何だろうコレは!?」と感じたりしました(笑)。あと石巻市の場合でいえば、土地の高低で津波の被害を免れたところもあるじゃないですか。そのギリギリで被害を免れたギリギリの場所に、コンビニが立っていて。コンビニの向こうが、全部津波で流されて、相当な被害なんだけど、お店は無事だったから通常通りに営業しているんですよ。店内に入ると、ハワイアンミュージックが流れていて、本のコーナーで「稲川淳二の怖い話」を立ち読みしている若者が2、3人いて。彼らが「怖ぇ!! この話チョー怖くねー!?」とか言っているんだけど、窓の外にはもっと怖い光景が広がっていて。そこで「何か変なものを見たぞ」という気持ちになって。こういう変な場所や、エピソードを次の映画では使いたいと考えていますね。

T:なんだかホラーと響きあうものがあるのかもしれませんね。

S:人の慣れ具合の恐ろしさを感じることはありました。

T:なるほど。

S:慣れてしまうんですね。さっきの話の、被災地の若者が「稲川淳二の怖い話」を読んでいるのは圧巻でした。人間の“慣れていく怠惰さ”については急いで映画にする題材でもないんでこれからじっくり考えていけばいいなと考えています。そういえば真夜中に飯館村の山中を車で走っていたとき、山奥に逃げてきた飼い犬、飼い猫たちの目が一斉にヘッドライトに照らされた瞬間に出くわしたこともありました。森の奥深くに、飼い主を失った犬や猫が住んでいるんですよ。頭を撫でられながら、ペットフードを食べていた彼らが、いきなりあるときから、凄まじいサバイバルの世界に巻き込まれて、いろんな動物の中で生きていくと思うとゾっとしました。これもまた一つの映画になるというか、創造を絶する世界だと感じて。第五福竜丸からゴジラが生まれたように、そこで怨念を込めたモンスターが生まれてもいいなと思ったんです。それこそ、『ワールド・イズ・マイン』じゃないですけどね。いろんなものや現象に出会いましたが、それはなかなか一本の映画の中には入らないので。

(インタビュー05へ続く)http://news.walkerplus.com/2012/1019/34/

【取材・構成=関西ウォーカー編集部】

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