交通事故で高次脳機能障害を負い、事故前の記憶の一部を失ったディジュリドゥ奏者GOMA。彼の復活の過程を過去の映像とスタジオライブで構成した松江哲明監督のドキュメンタリー映画「フラッシュバックメモリーズ3D」が現在公開中だ。韓国系日本人の家族が歩んだ歴史を、在日三世の視点でつづった「あんにょんキムチ」でデビューし、以降「童貞をプロデュース。」や「ライブテープ」、「極私的神聖かまってちゃん」など、個性的なモチーフを先鋭的な手法で描いてきた松江監督が今回挑んだのは、3D技術を用いた新しい形のドキュメンタリー表現。昨年ワールドプレミア上映された東京国際映画祭のコンペティション部門では「観客賞」を受賞するなど高い評価を得ている。
今回、映画の公開にあわせて、松江哲明監督と本作の主人公ともいえるGOMA氏が来阪。本作の成り立ちから完成までを語った。
Q:今回の作品はそもそもスペースシャワーTVで放映される番組として製作されたそうですが、その経緯を教えてください
松江(以下M):プロデューサーから今回の企画について打診があって、GOMAさんの音源を聞かせてもらったり、事故の話やリハビリ、復帰について話を聞かせてもらったんですが、当初は「別の人が撮ったほうが良いんじゃないかな…」と思いました。その気持ちが変わったのが、映画にもあった東日本大震災から18日後の渋谷での復帰ライブ。会場ではものすごい数の人がGOMAさんの演奏に熱狂してて、僕自身「なんじゃこりゃ!」と衝撃を受けて。GOMAさんの音楽のエネルギーを浴びるという体験がとても気持ちよくて、この音楽のエネルギーを表現するということなら、映画が作れるなと思いました。
GOMA(以下G):企画のオファーをもらったときは、自分でもまだ脳の状況が受け入れきれていない状態だったから、当時の自分の状況をオープンにすることが、僕や家族にとって良いことなのか、悪いことなのか悩みました。ただそれを後押ししてくれたのが、松江監督やプロデューサーだったり、僕と同じように脳損傷からの後遺症と闘っている人たち、そして僕の活動を応援してくれる人たちでした。一人ひとりの思いが僕の心を前に進めてくれたのが大きかったですね。
Q:3D映像の奥行きを“レイヤー”として捉え、一つの画面上で“過去”“現在”“未来”を表現する手法は、映像表現における発明だと感じました。この作品におけるレイヤーという手法は、どの段階で考えられていたんですか?
M:それはGOMAさんに会ってお話を聴いてからですね。渋谷で初めてライブを見た数週間後にGOMAさんのお家にうかがって、事故後にGOMAさんが体験されたフラッシュバックや、脳損傷の後遺症についてお話を聴かせてもらいました。何度かお会いするうちに、GOMAさんの口から繰り返される言葉であったり、GOMAさんが見ている文字を急に認識できなくなるというお話も聴いて。こういうエピソードはドキュメンタリーを作るうえで外せない要素なんですけど、今回の映画では、プライベートのGOMAさんを僕が撮影してお話を聴くような描き方ではなく、GOMAさんが話したことそのものを、3D映像として表現したいと思ったんですよ。たとえば“文字がパッと浮かんで消える”という現象は、3Dだとそのまま映像で描けるんですよね。2Dのフェードイン・アウトという効果ではなくて、3Dの場合は奥から文字が浮かんできて、手前に消えていくことが表現できる。3Dであれば僕がいまGOMAさんから聞いている話をそのまま映像にできるなと思って。人間って映像を認識するときに、手前のものを新しいと感じるようです。後ろ(奥)にあるものを未来とは感じないから、GOMAさんのいる現在があって、その奥にある映像は“コレは昔です”と説明しなくても、見てる人は後ろにあるものを過去と認識してくれるなと。それでGOMAさんの前に文字が出てくると、“未来へのメッセージ”と受け取ってもらえるはずだと感じたんですよね。
Q:作品中の過去のレイヤーに映し出されるGOMAさんの記録映像も、かなり膨大な量になったのでは?
G:僕が活動10周年を迎えたときに、自分の活動を記録した映像をまとめて、ドキュメンタリーを作ろうとしていたみたいですね。それを作っている最中に事故にあったんです。今から思うとその100時間を越える映像があったから、リハビリや社会復帰もしやすかったんですよね。映像を見ることで、自分の過去を知りやすかったです。お医者さんも「映像がこれだけ残っていたからよかった」と言ってくれて。実際に映像を見ながら自分の過去を勉強しなおす作業を2~3年かけてやりました。だからこの映像がなかったら、今回の映画も全然違う作品になっていたと思いますね。(後編へ続く)
【取材・文=関西ウォーカー編集部・鈴木大志】