現在、東京・森美術館で開催中の大規模個展「会田誠展:天才でごめんなさい」が話題の美術家・会田誠氏。エッセイ集の発売記念イベントで大阪・スタンダードブックストアにやってくると聞き、国立国際美術館での「滝の絵」公開制作以来、2年ぶりのインタビューを敢行した!
_エッセイの冒頭で、「もう遺書いらないんじゃないか」というほどありありとご自身の事について書かれているとあったんですが、そうなんですか?
会田「まあ、微妙ですね。作品の舞台裏とかを積極的に見せていこうというつもりでやってはいますけれどもね。」
_ご自身のことを晒したい、暴きたい、という欲求も少なからずあったのでしょうか?
会田「まあそうですね。でも例えばアトリエにテレビカメラやUstreamを設置して、制作状況をリアルタイムで中継みたいなものはやっぱり嫌ですけども。エッセイで自分の作品の解説をするにしても、ワンクッションあるといいますか…そこそこ嘘書いたり作り込んだりしますからねえ(笑)。」
_ハハハ!嘘ついてるんですか?
会田「嘘……ついてますねえ(笑)。ちょっと大袈裟に書いちゃって、あとで後悔するような。ジャージだけを履き続けたみたいに書いてあったけど、本当はジャージじゃない日もあったよね、みたいな(笑)。まあ、そこらへんの事実を細かく書いても面白くならないし。美術の方でよくやる…例えば『サラリーマン出て行け』みたいな、そういうちょっと誇張したような…本当はそんなことさらさら思っていないのにも関わらず敢えてやる、というものに比べれば、エッセイはまあまあ素直な言葉の使い方していますけれどね。」
_ご自分の作品についても触れておられましたけど「アイロニーの作用で演技じみてしまう」ということにほっとしたところはありました(笑)。
会田「ええ(笑)。でも若い頃は過激と思われるような表現はもっとしていましたけれどね。」
_若い頃は (笑)。以前のインタビューで「会田先生は相手に笑わせたいのか衝撃を与えたいのかよくわからない」という質問をしたのですが、その時のお答えが「笑ってほしいんだけど、なかなか笑ってもらえない」とおっしゃっていたんですよ。
会田「そうですねえ、今答えるとしたらどうでしょうねえ。まあそこは、作品によりけりなんですけれどね。ショックみたいな苦笑いみたいな…なんていうか、もうちょっと複合的な、微妙な気分にさせるものの方が、美術には向いているような気はしますけどね。日本のお笑いもその場で笑わせないと失敗とか、感動的なドラマだと観客を泣かせないとダメ、とか。そういうシンプルな到達目標はあるかも知れないけれども、美術はそれよりももうちょっとモヤッとしたものが向いているジャンルだから。」
_先ほどのトークショーで、年々、年相応に、柔和な感じに移行したいとおっしゃっていましたけど、そう思うようになったきっかけは何ですか?
会田「いろいろ細かいきっかけはあるんでしょうけどね。だいぶ前の話になりますけれど、90年代半ばくらいに世の中にちょっとした『鬼畜ブーム』みたいなものがありましてね。サブカル界隈での話なんですけど、いわゆる鬼畜と呼ばれる作者が一部でモテはやされていた時代があったんですよ。それで、僕も手足を切られた女の子を描いたりしていますし、とあるエロ本の取材を受けることがあったんですけれども、…まあ同じような特集の中で、マジでエログロ漫画描いているような方達と並べられた時に、明らかに自分の作品には迫力がないといいますか、『専門店』としてあちらの世界に身を捧げる覚悟もないなあと思いまして。僕のほうはあくまでも…コンセプチュアルアートのなかの題材としての『変態性欲』ってものを扱っている感じだったので。やはりちょっと、一歩引いてこそ、と思っている部分があるので。のめり込むタイプの表現者が悪いとかそういうことではないんですけれども、僕はたぶん『のめり込めない』ところから始まっているタイプですので…。これは『変態性欲』に限ったことでは無いんですけれどもね。ですから、今の時点で『柔和な』だとか『ロハスな』とか言っていたとしても、どうせこれもまたのめり込まないんですけれど。今、東京の森美術館で開催している展覧会につけた『天才でごめんなさい』というタイトルに対して、『お前のどこが天才なんだよ』という意見もよく耳にしますけれども(笑)、それは当たり前で。僕の自己意識としては、かなり平凡な、凡庸な、一般日本人の、なんなら真ん中にいるくらいの人間だと思っていて。ですから『変態性欲』も『ロリコン』もある程度理解できますし、ロハスみたいなのもわかるっていうかね。例えば人間の偏りグラフみたいなもので表したら、たぶん僕はすっごいつまんない六角形になると思いますね(笑)。」
_笑。そんな凡庸である自覚のある方が、作品の描写にああいったものを使うのって自然にできましたか?
会田「う〜ん…やっぱり…自分が平凡で、虫も殺せない男だってことがよく解っているからこそ、そういう描写も怖がらずに作れるというか…。ですので完全にのめり込んだ『本物志向』のお客様には、僕はちょっと物足りないと思いますね(笑)。というようなことを、さきほどお話した鬼畜ブームの時に痛感いたしまして。いわゆるDEEP変態のフリをするのはいけないなと思いました。」
_なるほど。それにしても、何回「鬼畜」とか「変態」というワードが飛び交うんだっていう(笑)。関西ウォーカー大丈夫なのかと(編集長のほうをチラ見)。
会田「ハハハ。いやあ〜、『変態性欲』ってのは学術用語ですからねえ(笑)。」
_そうなんだ(笑)。平凡である自覚があるからこそ、自分では思いも寄らない方向を求めているのかも知れませんね?
会田「ソコソコはそういうところもあるかも知れませんね。でもとても気が弱くて、外国に行っても冒険できない質なんですけれどもね(笑)。インドにバックパッカーでいくなんて到底できませんし、外国の貧民街とか、気にはなるんだけど恐くて入り込めないから、柱の陰とかから見てるだけっていう(笑)。」
_アハハハ!だからせめて粟島へひとり旅されたんですね。
会田「ええ、そんな男ですね。青春時代からちっぽけな男でしてね(笑)。」
※【その2】に続く
【取材・文=三好千夏】