【その3】の続き
_それで、作る側と見る側の気持ちの隔たりはこんなふうなんだ、と思いました。
会田「人によっては、自分の作業風景を見せたがる人もいらっしゃるんでしょうけれども僕は無理ですね。本人出たがりってのはいろいろいますよね。路上で『詩を書きます』みたいなのとか。どうもね、僕はライブに弱くて。現在やっている森美術館の個展では、映像作品もいくつかあるんですけれども、僕の映像作品というのは、どれもだいたい自分が出ているんですよね。いくつか特徴があって、まずは『非常に緊張してやっている』ということですね(笑)。撮影する前にすごく憂鬱になるんですよ。『ああ〜、やっぱりやらないといけないのかよ〜』みたいな。非常に多くの迷いが生じる(笑)。それで三脚を立てて、自分でポチって録画ボタンを押してからテテテってレンズ前に戻って…っていう。別に撮影を誰か他の人に頼んだっていいのに、自分以外の人間がその空間に一人でもいると落ち着かなくてね。ビンラディンの映像作品を撮った時なんかは、自宅で、妻も子供も居たんですけども『じゃ、今からちょっと撮影してくるから、2階にはぜったい来ないで』ってクギを刺しておいたりしてね(笑)。」
_ハハハハハハ!でもね…その小心ぶりというか、シャイさでね…あの、カメラの前で…オナ…マスターベーションとかしていらっしゃったじゃないですか…「美少女」という毛筆体の文字の前で。あと、リトアニアで撮影してらした「おにぎり仮面リトアニアの旅」では…ねえ、あれは…あの、ほんとに「出して」らっしゃったんですよね…?
会田「ええまあ。」
_映像作品に対してそれほどのプレッシャーを感じていながらも、ああいう映像が残せるのってね、もう「どういうドーパミンの出方してるんだよ」という気持ちでしかないわけですよ(笑)。
会田「笑。う〜ん。なんでですかねえ?とにかくやっぱりビデオカメラありきなんですよね。パフォーマンスがしたいんじゃないんですよね。『この世にひとりで扱えるビデオカメラというモノがある』という前提のもと、ああいう表現が出来ているわけで。」
_じゃあ、会田先生とビデオカメラだけで完結しているんですね。
会田「うん、そうですね。」
_現時点では、ご自分の求めている環境に身を置くことが出来ていると思われますか?
会田「う〜〜〜〜ん、まあ環境的には。不安なのはこちら側の才能の欠如であり。『天才でごめんなさい』なんて、どんだけ捻くれたタイトルだよって、もう自分でもププッって笑っちゃうんですけれどもね。どうして真に受ける人がいるのかなあ…(笑)。いやあ、自分の才能の欠如以外は何の不満も無い人生だと言えるんじゃないでしょうか。」
_作品に関しては、出来上がった時に自分自身で完全に納得できるというか、何の落ち度も不満もなく完成できているというのは無いんですか?
会田「まあ無いですよね。むしろ完全無欠の作品、って思えるものっていうのは、ヒョロっと一分で描いたもののやつのほうが。…世の中ってそんなもんじゃないですか?チクチクちまちま描き続けてきたやつは、出来上がっても自分で満足することは少ないっていう、そういう傾向はあるんじゃないですかね。」
_現時点での、ご自分の作品で言うとどれになりますか?完全無欠に満足できたっていうのは…
会田「いやあ〜、まあ、そういうのはね〜。ねえ?……この話題やめませんか(笑)?」
_ハハハハ!
会田「『みんなといっしょ』シリーズは、全然良く描けているわけではないんですけれども、マジックの描き味とか好きですね。『もう一回描け』と言われたら嫌なんですけれども(笑)。『あの時の一回でいい』と思えるので、そういう意味では満足の行く作品なのかなあって思いますね。『灰色の山』なんかは、描きだしの時点で、もう全否定から始まっているのでね(笑)。『なんでこういう描き始めにしちゃったのかなあ〜』『何で黒ペン使っちゃったんだろ、チャコールペンにしておけば…』って。もう、根本から後悔しているという。
_若手でアートに携わっている方の中では、何といいますか…、芸術家たるもの精神に障害があってナンボ、みたいな感覚で、作品以前に自分改革といいますか、自分の人間性を壊さないといけない、という気持ちが伺える方もいますけど、あれは…
会田「まあやっぱり若いからじゃないですかね。僕も19、20歳くらいの時に今のようにインタビューを受けていたら、よく居る『イタ〜い奴』になってたと思いますよ。声を振るわせながらね、『僕が…僕が社会を変えるつもりです!』とかねえ(笑)。そういうの言いかねない奴でしたよ、若い頃は。」
_先生の「理想の状態」とはどういうものですか?
会田「僕は先々を考えすぎるタイプの人間かも知れませんが、『自分が老人になった時にはどうしたらいいか』みたいなことを、暇な時にたまに考えたりするんですよね。それで『老人系アート』『老人系表現』の理想型がいくつかあって、ひとつのタイプは『みんなといっしょ』シリーズみたいなね、ヒョロっと枯れたような、身体に負担をかけないような(笑)、禅画とか、ああいう世界。ちなみに、しりあがりさんはそういう世界も切り開いていらして、やっぱりなんか、羨ましいんだよなあ……まあそれは置いておいて。それとはまた別に『ゲーテのファウスト型』という…ダヴィンチのモナリザでもいいのかな?老人になって描き始めて、何度も何度もちまちま描き直して、大作をウジウジとやり続けるというのもいいのかなあって。人知れず爺さんが描いて寝てっていう。世間の流れはもう完全に若い人に預けて、頑固でいじけた老人でいるっていうのがね(笑)。」
【取材・文=三好千夏】