昭和の作家・中上健次の短編小説を、鬼才・若松孝二監督が映画化した「千年の愉楽」。和歌山の部落を舞台に、男たちの悲しい運命と彼らを見守る老女・おばの姿が描かれ、刹那的に生きる男・三好を高岡蒼佑、彦之介を井浦 新が演じる。2人が若松監督の遺作となってしまった本作について、そして監督への思いを語ってくれた。
─井浦さんはこれまでも若松監督作品に出演されてきましたが、今回のオファーを受けた時はいかがでしたか?
井浦「すごくうれしかったです。2000年代の若松監督の作品に参加させてもらっていますが、常連という気持ちはみじんもないですし、監督とは馴れ合いになりたくないので、1本撮り終えるたびに“これが最後だ”という気持ちで作品に挑んでいます。監督も、僕が出演するという前提はなしにお酒を飲みながら『千年の愉楽』の話を楽しそうにされるんです。なので、オファーをいただいた時は、毎回、初めて若松組に参加した時の高揚感がありますし、感動があります」
─高岡さんは今回が初の若松組ですね。
高岡「脚本を読ませていただいた時に、この三好という役は自分にできる、ほかの人にやらせたくないと思いました。どうやって三好を演じようかという時に、ロケ地の風景や監督の懐の大きさに“おば”(寺島しのぶ)の姿を重なったりしました。監督もまっすぐな方で“今”を懸命に生きる姿に、三好を重ねた部分もあります。僕は役に対してあまり“これは自分じゃなきゃ”とは思わない方なんですけど、今回は自分にとっていろんなタイミングが重なってのオファーだったので、ご縁があったんだなと思います。当時、29年間を生きてきたなかで自分の経験してきたことが、三好を演じるにあたってサポートしてくれるかもしれないと思いましたし、同世代の俳優の中なら自分にしかできないだろうなという気持ちもあったんです。そういう強い気持ちになれたのはよかったなと思います」
井浦「自分自身の状況と役柄が合致するって、なかなかないことじゃないですしね」
高岡「やってみて自信に変わることもあって。恋愛じゃないですが、第一印象でビビっときたという感覚はこの作品であったかもしれないですね」
─これまでにお2人は共演されたこともありますが、改めてお互いの印象はいかがでしたか?
井浦「これも縁なのか、若松監督とゆかりのある阪本順治監督の『座頭市 THE LAST』(’10)と、阪本監督のことを“あの年代では一番だ”と絶賛される若松監督の『千年の愉楽』で共演をさせていただきました。『座頭市~』の現場で会ったのが最初だったので、その時の高岡君はすごくナイーブな役柄で、僕はヤクザの親分の右腕役で。お互いに極端なデフォルメが必要な役だったので、余裕はなかったです(笑)。今回は共演シーンがないので、現場では会えなかったので、この作品の中で観た高岡君は前回のイメージとまったく違っていて、表現がものすごく自由で何にも縛られていないような感じがしました。どんなに悲しいシーンを演じていても、観ているこちらは“楽しそうだなぁ”って思うくらい気持ちのいい芝居をされているんです。2人の監督の現場でまったく違う高岡君の姿を見ていて“次はどうなっていくんだろうな”ってすごく楽しみです」
高岡「若松監督の現場での雰囲気と、阪本監督の現場にいた時の雰囲気とはまた違いましたし、今回は刹那的に生きる男の象徴として最初に登場するインパクトもすごい。これはきっと若松監督の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(’12)で三島由紀夫を演じた新さんだからこそできたんじゃないかなって思います」
※【その2】に続く
【取材・文=リワークス】