内村光良監督&脚本で、人気放送作家・鈴木おさむの原作を映画化した「ボクたちの交換日記」。結成12年の鳴かず飛ばずの芸人コンビがひょんなことから始めた交換日記を通じ、コンビの絆や夢を追いかける苦悩などが描かれていく。主人公のお笑いコンビ・房総スイマーズのツッコミ担当、甲本を演じた小出恵介が、本作で自分自身に課したこととは?
─今回、初めてお笑い芸人役に挑戦。オファーを受けた時はいかがでしたか?
「鈴木おさむさんの原作を読んで、お笑い芸人に対する優しい眼差しや愛情、熱意を感じたんです。たくさんの芸人さんを見てきたなかで、映画の主人公のようにスポットライトを浴びることができなかった人たちもたくさん知っている。そういう人たちへのリスペクトも感じられて、いいお話だなと思いました。自分が演じるとなるとハードルも高く、プレッシャーも感じるなかで、演じるか演じないかとても悩みましたね。でも、物語やキャラクターがとてもステキなので、日を追うごとに挑戦してみたいという気持ちになっていきました」
─俳優とはまた異なる世界で生きる芸人を演じることは、やはり本職とされている方に対して、プレッシャーはありましたか?
「そうですね。やっぱり俳優と芸人では全然違う世界だと思いますし、芸人さんの世界にあるドラマを俳優である自分が安易に演じちゃいけないような気もしていて。だから、やるなら体でぶつかっていきたいと思っていましたね。ネタのシーンに関しても簡単にやっちゃうと、痛々しくなっちゃうんじゃないかなって。だから、稽古もすごく大変でしたし、粘りましたね。ネタのシーンは内村監督が誰よりもこだわっていましたし、すごく頼もしかったです。監督自身が芸人であることの説得力はとても大きいと思うので、僕らはそれに乗っかることができたと思います。内村さんが監督されるということも、出演の大きな決め手にはなりました。芸人さんではない方が監督をされると、ちょっと遠くから見ているようになってしまいますけど、内村さんはその中心にいらっしゃる方なので全然違うと思うんですよね」
─芸人役を演じるにあたり、ウソくさくならないようにすることを一番に心がけていたと思いますが役作りで参考にしたものは?
「ネタもののVTRを見せてもらったり、ドキュメンタリーも観ました。共演させていただいた芸人さんにお話を聞いたりして、芸人さんとの接点を増やしていきましたね。芸人として舞台に立つ心構えを身近で感じられましたし、実際にお客さんを目の前にネタを披露するとシビアに、笑えるところ・笑えないところが出てきますよね。だから、芸人さんって本当にメンタルが強いんだなって実感しました。舞台って自分たちがやっていることが受け入れられているのか、そうじゃないのかって明確に出るので、そういったところは、俳優よりもスリルは大きいのかなと思います」
─脚本も内村監督自身が書かれていて、劇中のコントも内村監督の考えたものですが、それを再現する難しさは?
「難しさはありましたね。内村さんのイメージで書かれていて、内村さんがやるのが一番おもしろいわけで…どうにかして近づこうとするんですが、上手くいくのかなというプレッシャーはありました」
─相方のボケ担当・田中を演じるのは、初共演となった伊藤淳史さんですが印象はいかがでしたか?
「伊藤君は同い年ですけどキャリアも長く、冷静。与えられたこともきちんとやるので、すごく安心感がありましたね。僕はコンビというものを組んだことがないので、コンビって独特な関係だなって思いましたね。“自分だけが目立ってやろう”なんて思うとダメになってしまうし、お互いを感じるということがコンビにはあるんだなって思いました。」
─伊藤さんと現場で演技について話し合ったことはありますか?
「あんまりなかったですけど、現場で自然とお互いにコンビということを意識すると、そういった佇まいになってくるものなんですよ。舞台だと役者さん同士で役の話をすることが多いんですが、映画ではあまりなくて徐々に自然と呼吸が合わせられるようになっていくんです。なので、映画の現場に関しては僕にとってはリハーサルが多いと雰囲気がつかめてすごく助かるんですよね。今回の現場だと演技シーンはそんなに多くはやっていないですけど、ネタのシーンはたくさんやりました。ネタのシーンはテンポがズレると笑わせられるところも笑わせられなくなるので、頭というより体に入れるみたいな感じですね」
─実際に演じてみていかがでしたか?
「楽しかったですね。もちろん大変なこともありますけど、本当に演じてよかったなと思える役であり、出演してよかったなと思える映画になりました。夢を追いかけている人ってやっぱり美しいですよね、僕はどちらかといえばそういうタイプの人間ではなくて、熱くなかった(笑)。彼らみたいにまっすぐに夢を追いかけている姿にあこがれもあるんですよね。甲本は途中で夢を諦めてしまいますが、夢を諦めたことのある人やいま、なにかを夢見ている人、またはそんな人たちのそばにいる人が“夢を見るっていいことだな”って感情移入できると思うんです。内村さんの人柄もあって、すごく優しさにあふれた作品になっているので、それに浸ってほしいですね」
─ちなみに、現在のご自身の夢は?
「今の仕事は自分が思ったようにはならないし“なるようにしかならない”と考えていて、特に俳優は人に“呼ばれる”仕事ですし、自分でこうやりたいと言ってもできなかったりもするんですよね。目の前にあることを一生懸命やって、求められることに応えることを繰り返していくだけだと思っています」
【取材・文=取材・文=リワークス】