関西の街なかにある知られざる見どころを、写真家小林哲朗氏の写真とともにビジュアルの魅力もあわせて紹介する連載の第2回。今回は、台風による高潮の際に大阪の街を守る水門や排水機場の裏側を見学させてもらった。
多くの人々が暮らし、都市機能が集中している大阪の多くの部分が、実は海抜ゼロメートル以下であるということはあまり知られていない。地盤が低く、また、大阪湾に面していることから、過去に大阪は台風による高潮によって多くの被害がもたらされた。これらの被害を契機に流域を守るため整備されたのが、今回見学させてもらった「尻無川水門」や「毛馬排水機場」だ。
大阪には、国内では珍しいアーチ型のかっこいい大水門が3つある。安治川、尻無川、木津川に掛かるこれらのアーチ型の水門はそれぞれ赤色、青色、緑色で、大型台風の際にはアーチ状の部分が川に倒されて閉鎖され、高潮が水門より上流へ遡ることを防ぐ。今回見学させてもらったのはその一つ、青色の尻無川水門だが、間近で見てまずその巨大さと独特のフォルムにドキドキ。川のど真ん中にどーんと鎮座しており、「これが今から動くのか・・・」と思うとわくわくする。そう、台風による高潮の場合は「かっこいい!」などと言っている場合ではないが、この水門は月に一度試験運転が行われていて、からりと晴れた日でもアーチがゆっくりと動き、川をせき止めるその姿をこの目でじっくりと見ることができるのだ。水門が下される前にはサイレンが鳴り、アーチを下す巻上機がガタンガタンと音をたて始める。ゆっくりとゆっくりと、およそ50分かけてアーチは川のほうへ傾いてゆき、やがて川は完全にせき止められる。アーチ状の巨大建造物が川をせき止めている様子は、青空に掛かっているときとはまた違ったかっこよさ。有事のときと同じ水門の姿を目の当たりにして、「台風のときにはこの水門が閉まって、この高さで高潮から守ってくれるんだ」と実感することができる。そして、またゆっくりと川から空へと上がってゆくアーチを見ながら「今度台風が来たら、この水門の姿を思い出すだろう」と考えた。頼もしくてかっこいい、大阪の三大水門はそんな存在なのだ。次回の試験運転の日程は、水門に随時掲示されているので、チェックして日時を合わせて訪れたい。
ところで台風による高潮のとき、これらの水門で川をせき止めてしまうと、流域の水の逃げ場がなくなってしまい、水位が上がって浸水氾濫が起こる恐れがある。この水を強制的に淀川へ排水する機能をもつのが、大阪市北区にある毛馬排水機場だ。大川に流れる水量を調整する役目を持つ「毛馬閘門」(こちらはアーチ型ではない)に隣接するこの施設、屋上へ上がらせてもらうと向かって北側に淀川、南側に大川が流れ、二つの川が接する場所に位置していることがよくわかる。この施設は甲子園球場を約30分で満杯にできるだけのポンプ機能を持ち、12年夏に発生したゲリラ豪雨の際などは、この排水機場が機能して流域を浸水氾濫から守ったという。排水機場にはポンプを動かす電気を作る発電所も併設されていて、有事には8600馬力で稼動するエンジンたちが整然と並んでいる。発電機のエンジンは南極観測船と同じものだそうで、ますますかっこよく見えてくる。
過去の大阪の高潮の被害や防災対策などについては、大阪市西区の「津波・高潮ステーション」でもわかりやすく学ぶことができる。三大水門の試験運転日は随時掲出されているのでチェックして。大阪が誇るかっこいい防潮施設で、わたしたちの街がどのようにして守られているのか目の当たりにしてみよう。
【取材・文=関西ウォーカー 座親万梨枝 撮影=小林哲朗】