【その1】「瀬戸内国際芸術祭2013」がスタート! ビートたけしと共作したヤノベケンジに直撃!

関西ウォーカー

現代美術作家のヤノベケンジが「瀬戸内国際芸術祭2013」で小豆島に招かれ、物語性を重視した複数の作品を展示することになった。関西から小豆島へ向かう唯一の航路である神戸港発のジャンボフェリーから、既に展示は始まる。テレビ番組がきっかけでビートたけしと共作して、東京都現代美術館でも展示された「ANGER from the Bottom」は島内に設置。間違いなく今回の目玉展示である。

たけしとの共作の経緯、そして「瀬戸内国際芸術祭2013」の展示作品に込められた想いを聞いてみた。

―まずは「ANGER from the Bottom」を共作されたビートたけしさんとの出会いから教えてもらえますか。

「2年前に放送されていた『たけしアート☆ビート』(NHK BS)がきっかけですね。番組は終了したんですけど、スペシャル版を放送することになって、たけしさんが京都形芸術大学に1日学生として来る企画になったんですよ。学内の僕がディレクターを務める工房「ウルトラファクトリー」の存在を知られてたのですが、その工房は学生が想像しうるものを何でも創れるようにというコンセプトの場所で、たけしさんも『オイラもここで何か作品を作りたい!』と言ってくれて。去年の9月くらいに、たけしさんが番組を収録する東京のスタジオで本番前に打ち合わせを始めました。たけしさんは井戸からバケモンが出てくる簡単なスケッチを描いてくれて、感覚的なイメージを話してくれたんですね。でも、コントのオチで使われる大道具みたいなギャグのアイデアだったんです(笑)。僕はたけしさんが映画デビュー作『その男、凶暴につき』で、芸人テイストを抑え暴力的な切り込み方をしていたのが好きで。だから、同じような感じで美術界にも切り込んでほしかったんです。それを言うと井戸からマシンガンを持ったバケモンが出てきて、銃声の音に合わせて観客が倒れていく参加型アートのアイデアも出してくれましたよ。『それもギャグじゃないですか!?』と却下しましたけど(笑)。たけしさん、過去に展覧会を美術館で開催されていましたけど、絵画はご自分で描かれるから素晴らしいんです。でも立体はテレビセットの大道具さんに任せちゃうのでなかなか深みが出ない。だからこそ、今回は僕のフィルターを通して、全く違うものにしたかったんです」

―井戸というテーマは受け取られたんですね。

「そうですね。僕の時代に井戸はなかったですけど、昔はコミュニティーの拠点だったと思うんです。でも、文明科学の発展で失われてしまった。原発事故もそうでしたけど、文明科学の発展で自然や昔からあったものが無くなってしまうというのは批評にも繋がると読み取ったんです。今の世の中も好転しない状況なので、ある種の憤りを形にできないかとはちょうど考えていた時期でもあったので。たけしさんの意見を取り入れるだけじゃなくて、美術制作のプロとして、たけしさんの純粋さを出したいとも思いましたね。映画『アウトレイジ ビヨンド』の記者発表で、たけしさんは繋がりや絆だけでなく、今は怒りを出さないとと発言されていた事も聞き、自分と向いている方向は一緒じゃないかと」

―打ち合わせは、どういう風に進んだんですか。

「10月にやった2回目の打ち合わせの時に、たけしさんに僕が書いた絵コンテを提示したんです。イソップ童話の『金の斧』のパロディーで、欲にかられた男が結果、斧で神様を殺しちゃうというたけしさんのギャグがあって、それをモチーフにしたんですよ。井戸にいる龍神様の頭に斧が刺さっている絵コンテで、人類は神さえも殺してしまうという想いを込めたんです。そしたら、たけしさんが『何も文句が無い』とおっしゃってくれて。で、タイトルを決める時に『ANGER from the Bottom(地底からの怒り)』というのが出てきて、怒りの予兆として地鳴りの演出の音源はたけしさんのうめき声を使っています。テレビ局の楽屋で二人で「うぅうぅ」唸りながら録音しましたよ。(笑)」

―本当に見事な融合だったんですね。

「80年代にバラエティーの雛形を作って、その後、映画界にも進出しましたし、その時代時代の精神を見通すことができた数少ない人だと思うんです。シャーマンみたいな人でもあるなって。そんな人がどれだけ僕が駄目出しをしても、怒りもせずに聞いてくださったんですよ。ありがたいことです。たけしさんが自身が気付いかなかった部分も発見できたとおっしゃってくれました。もし僕だけの作品なら、斧も井戸も両方出てくるモチーフではないんですよ。なので、共作はおもしろかったです。井戸の石も福島の石をゴムでかたどって積み上げたりと、そういうアイデアを僕からは出していきました」

※【その2】に続く

【取材・文=鈴木淳史】

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