【その2】現在全国をキャラバン中の「LIVE福島」。活動の中心となる箭内道彦氏に直撃した!

関西ウォーカー

※【その1】の続き

_震災と同年に行った福島での6日連続ツアーも、あの時期にあの動き方はすごいなと。

箭内:最初はね、僕は何をやる時もそうなんですけど、誰にも相談せずに勢いだけで始めちゃって、先に公表してしまってから、ようやく「さあどうしよう」って具体的になっていくパターンなんです(笑)。福島での6日間ライブを最初に決めたのは4月2日だったんですけど、それまで3月の僕の頭の中にあったのは「『I love you & I need youふくしま』という曲をどう有名にするか」ってことだったんですよ(笑)。なんせレコード会社がついてないもんだから、僕が宣伝部長でプロモーターなので。それで猪苗代湖ズが軌道に乗ってきたなと思い始めた時期に、物資を持って福島に行ったんですけど、その時にね「福島にはいま約束が必要だ」と思ったんです。今は誰も、何も約束してくれていないから。いつまで避難所にいないといけないのかとか、放射線はこれからどうなっていくのかとか。離ればなれになってしまっている家族とはいつ会えるのか、とか。誰からも、いつとも約束してもらえない状況の中で、何か強い約束をしたかったんです。それが「9月に福島で、大きなフェスをやります」ということだったんですよね。その約束だけで、たくさんの人が元気になれるんじゃないかなって思って。でもそうやって決めたはいいけど、みんな心配しましたね。仲間のミュージシャン達が懸念していたのは、福島でフェスをやるということは、当然福島以外の土地からも人が来るわけなんですけど、この状況で果たして県外

から大勢の人を呼んでもいいのかということだったり。だからほんとにけっこう止められましたね。「6日間もやらなくていいんじゃないか」とか。みんながそれぞれにあらゆる状況を考えてた中でも一番大きかったのは、地元の若い人たちが「やってください、箭内さん!」って言ってくれたことと、現地で被災した企業が賛同社になってくれたことですね。福島に工場を持つ、アサヒビールとか、日産、ダンロップとか。そんな人たちが「福島を元気にする活動の手伝いをさせてほしい」と言ってくれて。日産自動車のいわき工場は県内でいち早く復旧をされたんですが、ライブの最終日は日産の工場の敷地内で行ったんです。僕の仕事は広告屋で、そういうことも含めて、全部を伝えることが自分の使命だなと思っていて。そういう気持ちでなんとか9月まで辿り着いたんです。会場も放射線を測りながら決定したんですが、郡山の会場に関しては、何回計っても高い数値だったのでギリギリで会場を変更したりだとか。

_その6日間を終えられた後の心境はどうでしたか?

箭内:僕はここで、この時のステージから見た風景っていうのが本当に忘れられなくて。若者だけじゃないんですよね。中年の方も、おじいちゃんおばあちゃんも来ていたんですけど、みんなね、泣きながら、拳を振り上げて歌ってるんですよね。それを見た時に「震災から約半年間、みんなずっとずっと我慢してきたんだな」って思って。そこでそうやって泣いたり大声で叫んだり大きな口あけて笑ったり、そういうことが思いっきりできるきっかけと場所を提供できて良かったなって思いました。この行動は、例えば原子力発電所を廃炉にしたり、放射線を直接除染することが出来るような力はもちろんないけど、それよりも、これまでの半年間を労って、明日からの暮らしに対する力をみんなでちょっとだけでも分かち合えたらいいなと思ったので。それで実際、そういう状況を目の当たりにしたので。震災直後はね、もう、ほんとに音楽って無力だなって思ったんですけど、でもあれだけ音楽がしでかしたすごいことっていうのを見てしまったから。なんて言うのかな、音楽っていうものの力に改めて驚かされたから。僕は絶対にその力を大切にしたいなって思ったんですよね。

_以前に怒髪天の増子さんのインタビューで、震災についての話題に触れた時に「どんな有名なアーティストが来たって、彼らの傷を消すことは出来ないよ。でも、楽しい思い出を一つ増やすことは出来る。マイナスは無理でも、プラスは出来る。それが自分たちが音楽やってる理由の一つだ」っておっしゃっていて。それですごい納得できたというか。「癒す」じゃなくて、楽しい記憶を「増やす」ってことが。

箭内:怒髪天は6日間すべてに出演してくれていたんですけど、怒髪天の歌をね、福島県ではおじいちゃんもおばあちゃんも子供たちも歌えるんですよ。歌詞カードも見ないで。増子さんは取材やなんかで「よく6日間も空いてましたね!?」って言われたらしいんだけど、それで「空いてるわけないだろ!空けたんだよ!」って思ったって(笑)。もう彼らは福島県出身だと思われてますよ(笑)。増子さんの「楽しい思い出を増やすことは出来る」っていうのは、たぶん本当にそう思ってるところと、ちょっとだけ謙遜があるんでしょうね。だって、ちゃんとみんなの悲しい気持ちを少しだけ消すことだって出来てますから、彼らは。本当に。

※【その3】に続く

【取材・文=三好千夏】

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