人生に行き詰った一人の俳優の再生をモノクロでつづった映画「Playback」が現在公開中だ。主演の村上淳をはじめ、渋川清彦、渡辺真起子、菅田俊など日本映画ファンにはおなじみの実力派が顔を揃える本作を監督したのは、本作が長編2作目となる三宅唱監督。豪華俳優陣とのコラボレーションを経て、商業映画デビューを果たした若き俊英監督に話を聴いた。
―本作を制作されるようになった経緯は?
三宅唱(以下、M):映画雑誌の編集をしている僕の友人が、取材で出会った村上淳さんに、僕が初めて撮った長編映画のDVDを渡してくれたんです。僕はそれを知らずに、ある日自宅でメールチェックをしていたら、件名に“村上淳です”と書かれたメールが来ていて。「誰かのイタズラかなぁ」なんて思いながら本文を読むと、DVDを見てくれた村上さんがすごく丁寧な文面で映画の感想を書いてくれていて。それを読んだ直後に村上さんから僕宛に電話がきて「今度食事に行きましょう」ということになったんです。そこで始めて村上さんと対面して、僕は内心「わぁ…ムラジュンだ…何コレ…やべぇ…東京…」って思いながら(笑)、じっくり映画の話をしました。その翌日には村上さんの所属事務所の社長から「一緒に映画を撮ろう」と話をもらって、そこから具体的な企画を練っていきました。
―村上淳さん演じる主人公は40歳を目前にした俳優という役柄です。仕事の行き詰まりや妻との関係など人生の分岐点に立たされた彼が、旧友に誘われ故郷を訪れることで夢とも現実とも言い切れない不思議な時間を過ごすことになります。特に主人公の行動を反復して描くという手法は、映画に独特のグルーヴをもたらしていたと思います。
M:自分が映画の中で見てきた俳優と一緒にお仕事をするということで、“俳優ってなんだろう?”と改めて考えました。例えば映画の現場だと、俳優は同じセリフや動きを繰り返し演じるわけですよね。その繰り返しや反復というのは、俳優を象徴するようなものだと感じたんです。そう考えると、映画というメディアもまた、同じ内容が劇場で繰り返し上映されるので“映画もまた繰り返しである”と感じたんです。さらに考えを進めると、自分たちの日常も同じような時間に起きて仕事に行って…という繰り返しなのかなと思って。俳優について考え始めたことで、俳優という職業は決して自分たちと無関係ではないなと。重要な問題がここにはありそうだなと思って映画の中に取り入れました。
―主人公が故郷に帰るとそのまま高校時代に戻ってしまうというシーンで、村上さんが学ランを着て学生時代を演じています。村上さんの学ラン姿が自然で驚きました。
M:もしかしたら、40歳近い男が学ランを着ることで人間の老いた部分を出せるかなと思ったんです。でも改めて思ったのが、あの人はめちゃくちゃ学ランが似合う(笑)。衣装合わせのときに学ランを持っていったら、村上淳によるカッコイイ学ランの着こなし講座が始まって(笑)。結局3時間ぐらい村上さんが熱く語っていました(笑)。
―映画の中にはスケートボードが重要なモチーフとして登場しますが、それは村上さんがスケートボードをやられていたことから出てきたアイディアなんでしょうか
M:そうですね。村上さんはすでにいろんな映画で素敵な演技を残されています。でも自分としては“誰も見たことのない村上淳”を撮りたかった。考えると今のところ村上さんは映画でスケボーには乗ってなさそうだぞと。日本で活躍する40歳前後の俳優で、スケボーを乗りこなせるのは村上さんだけだろうなと考えたんです。うまくいけばきっと面白いから、村上さんが嫌だって言ってもなんとか乗ってもらうつもりでスケボーのシーンを入れました。
―スケートボードってすごく映像に映える乗り物だと思いました。
M:独特のスピード感を映像で観るのがとても気持ちいいと思うんですよね。あとコンクリートを滑る音がたまんないですよね! 映画の中にスケボーを描く時には音を聴かせたいと考えました。コンクリートを走る音であり、跳ねて着地したときの音とか。スケボーの音を映画館の音響で聴くのは、きっとこれまでの日本映画にはない贅沢な経験だと思うので、それを撮れたのが今回は良かったですね。
―完成した本編を見たキャストの皆さんの反応はいかがでしたか?
M:感想はバラバラなんですけど、共通しているのは映画を気に入ってくれていることですね。この映画はシナリオの段階だと完成図が見えない作品なんです。キャストの皆さんは撮影中、不安を抱えていた人もいると思うんですけど、こういう形で映画になったというのが、とても新鮮だったみたいですね。キャストの方から聞いたんですけど、皆さん自分の出演作は何度も見返さないそうなんですけど、この映画は何度も見返す人が多いんですよ。
【取材・文=関西ウォーカー編集部・鈴木大志】