かつてクルマやアニメーションに登場するロボットは、子どもたちをワクワクさせる格好のアイテムだった。現在、ハイブリッドカーなどのテクノロジーが進化し続けているクルマ。では、デザインはどこへ向かうのか。デザイン界で世界の最先端を走る和田智氏と大河原邦男氏。いま、匠たちがクルマに期待していること、それは、“機能美=乗りやすく、使いやすい”がキーワードのようだ。
■想像力が優れたデザインを生む
和田智(以降和田)「日本は品格を持ったカーデザインを生み出すことにおいて、アジアの中で一日の長があると思います。そして、その背景には、大河原さんをはじめとする日本のメカニック・デザインや哲学が息づいていると思うんです」
大河原邦男(以降大河原)「僕がメカニック・デザインをすることになったのは、1972年。科学忍者隊ガッチャマンという作品でした」
和田「もちろん、知っています。とにかく“白”が印象的だった。それと子供心に、絵がすごくきれいだったことを覚えています」
大河原「でも、メカニック・デザインはそれまでなかった職種なんです。お手本もなにもないから、手当たり次第に本を見ました。『カースタイリング』誌などさまざまなデザイン専門誌などからできるだけ情報を得て、あとは想像力でまかなっていた。でも、だからこそインパクトのあるデザインができたと思います」
和田「僕も大学一年のとき初めて見ました。その雑誌でジウジアーロと出会ったことで、カーデザイナーを目指すことになるんです。僕の運命を変えた雑誌ですね」
■脳裏に残るデザインは継承されていく
大河原「我々の仕事は、普通のクルマを描いてはいけないんです。何よりも大事なのは、子どもたちの脳裏に残るデザインであること。そしてキャラクターとして描く…それが使命なわけです」
和田「そうやって生み出された日本のアニメーションは、確実に世界で認知されています。アメリカやヨーロッパの同業者の口から、大河原さんが生み出したロボットやメカの名前が出てくることは多い。誇らしく思いますよ」
大河原「以前、ある自動車会社のデザイナーさんとお話したことがあります。その方は自分の作品を指して、“これは僕の(装甲騎兵)ボトムズです”とおっしゃった(笑)。そんなふうに言ってくださる方が企業の開発部門や大学にいらっしゃる。責任感を感じますね」
和田「ガッチャマン、マッハ号…非常にインスパイアされました」
大河原「正直、いまの日本のクルマのデザインには魅力を感じないんですよ。子どもたちが思わず振り返ってしまうような…そんなステイタスを持ったクルマを作ってほしいですね」
■ポロにこれからのデザインのヒントがある
大河原「今度新しいスモールカーの基準ができますよね。そこに可能性はありませんか」
和田「僕は小さいクルマが大好きなんですよ。そして日本は軽自動車市場を見るまでもなく、小さなクルマが得意。だから、そこに革命を起こしたいと思っています。最も安いクルマを最も美しくしたい…それが僕のテーマなんです」
大河原「スモールカーといえば、私は普段はフォルクスワーゲン・ポロに乗っていますよ」
和田「ドイツ車のデザインには、機能美を大切にする感覚が毅然としてありますよね」
大河原「確かにポロは、乗りやすく、使いやすいクルマです」
和田「僕はポロのことを、いつも絶賛しています。“世界で一番美しい普通”だと。そして実は、この感覚に敏感な人は日本には多いと思います。嗜好性も思考も、なんとなく合っているんですよね。VWのポロやゴルフ…あとポルシェは劇的に変化するのではなく、時代の息吹をゆっくり取り入れながら進化する。まるでそれこそがデザインのすべきことだというように。そこにこれからのカーデザインのヒントがある気がしています」
【プロフィール】
和田智(わだ・さとし)●プロダクトデザイナー。1961年東京生まれ。SWdesign代表取締役。元日産自動車、元AUDIのデザイナー。現在は新しいビークル&プロダクトデザイン開発に力を注いでいる。近著「未来のつくりかた アウディで学んだこと」(小学館)
大河原邦男(おおかわら・くにお)●メカニックデザイナー。1947年東京生まれ。アニメにおける日本初のメカニカル専門デザイナー。「科学忍者隊ガッチャマン」「機動戦士ガンダム」「タイムボカン・シリーズ」など手がけた作品多数。連載は月刊「ガンダムエース」(角川書店)ほか