※【その2】の続き
_どういう女性であれば、一筋に愛されるのでしょうかね。切実な質問ですが(笑)。
冲方「やっぱり『こいつがいなくなったら俺は困る』という実力のある人じゃないですかね(笑)。もうこれに関してはお互いの意志の問題なんですよね。清少納言も、一途に愛したかと思えば、気持ちが無くなったら一切自分の局には入れない、という意志の強さがありましたからね。ここで情にほだされるようなことがあると評判が悪くなるので(笑)。このあたりが本当に面白い」
_今作は、いわゆる“歴史小説です”とひとことで言い切ってしまえないほど、人生訓だったり生き様が強く感じられます。何よりも「言葉」の力が強いんですよね。
冲方「やっぱり生きているんですよね、彼女たちは。言葉の中で生命を保っているというか。僕は今回の作品から『アンネの日記』を連想するんですが、ひとつの人格と人格の背景や周囲の人達を四角四面に書くのではなく、人間として当たり前の感情を書いているので、いつまでたっても言葉が非常に強い生命力を持っているんですよね」
_「歌を詠む」ことで、詩的に自分の状況を理解していくというのも素晴らしいなと思いました。例えば「彼からメールがこない」という状況の中心にいる自分と「彼からメールがこないという状況にいる自分」を俯瞰視している自分がいて、その状況をあらゆる表現で紐解いていくことで、初めて見えてくるものがあるというか。
冲方「メールをもらえない感情を歌にしてみるっていうね。一番大切なのは恋しい相手が自分のもとに来ないことでまず“悲しみ”が沸いてくるわけなんですが、その悲しみを卑下せずに『この情緒を私は持っている』ということと、その情緒を『歌にまで高められる私』で成り立っているんですよ。基本的にこの時代の人達は、失恋したほうがかっこ良かったりするんですよね(笑)」
_確かに(笑)。今作を経ての次作はもう見えていらっしゃいますか?
冲方「第4弾は勝海舟をやろうかなと考えています。『部下のことを何も考えない、ダメな上司に振り回されて尻拭いをさせられた勝海舟』にフォーカスを当てようかと(笑)。彼は清少納言とは真逆で、正妻に『旦那と一緒の墓には入りたくない』と言わせてしまうほど信じられない女好きだったんですが、動乱の時代を治めるには大変優れていた人物で。勝海舟を書くとなると、必然的に西郷隆盛についても書くことになるんですが、『光圀伝』と『はなとゆめ』で江戸と京都を描いて、『天地明察』では会津から京都、次は会津から薩長までを俯瞰できる作品が描けるのが理想ですね。最低限それが出来れば、やっと日本と朝鮮半島、中国の関係を物語に描けるかなと考えています。日本視点の世界史が描けたらいいなと思っているんですが、まだまだ遠いですね(笑)」
【取材・文=三好千夏】