1986年、歌舞伎界に大旋風を巻き起こした三代目市川猿之助(現・猿翁)の「スーパー歌舞伎」が誕生した。第1弾が『ヤマトタケル』。宙乗りや早替りなど、従来からある歌舞伎の「ケレン」を時代に合わせて進化させたド派手な演出、スピーディに繰り広げられるスペクタクルな物語、そして豪華な衣裳!それまで歌舞伎を観たことのなかった若い層も巻き込んで、大ヒット、これまでに9作品が上演された。
そして今、四代目市川猿之助は、伯父の作った「スーパー歌舞伎」の精神を継承、より進化させるべく「スーパー歌舞伎II(セカンド)」と名づけ、新たなステージに挑む。作・演出には「そのファンタジックな世界は、スーパー歌舞伎の手法がふさわしい」と、独特の世界観で注目される気鋭の劇団「イキウメ」の主宰者、前川知大に依頼。また、自ら佐々木蔵之介、浅野和之、福士誠治に声を掛け、市川右近や笑也ら澤瀉屋一門とともに歌舞伎と現代演劇がコラボする舞台を作り上げる。物語は、同じ村で育った仏師(猿之助)と幼なじみ(蔵之介)の生きざまを軸に展開する「勧善懲悪大スペクタクル劇」(猿之助談)だ。二人宙乗り、大立ち廻りなど、見どころもしっかり。初めて歌舞伎を観る人には最適の舞台、ぜひこの作品で歌舞伎デビューをオススメする。歌舞伎史に残る新たな伝説の誕生、その瞬間を目撃しよう!
東京で行われた会見での猿之助のコメント
「次のスーパー歌舞伎をいつか作りたいという、長年の夢がありました。一人ではできないことだけれど、一人の思いから始まる。強く思い続けることが大切で、今回、いろいろな出会い、襲名、周りの力、見えない力が加わって動き出しました。歌舞伎は、ゆくゆくはあらゆる垣根を越えなければいけない。観る側も演じる側にも垣根がない、それこそが私の目指す歌舞伎です。伯父はつねづね『歌舞伎の演技法を使ってやれば、それは歌舞伎だ』と言っていました。その精神を継ぎたいと思います。夢がかなってワクワクしていますが、もし、この芝居に失敗したら役者をやめる、それぐらいの気概で臨みます!」
2月、今作の稽古が始まったばかりの市川猿之助が来阪。「スーパー歌舞伎II(セカンド)」への意気込み、舞台制作への思いを語ったスペシャル・ロング・インタビュー!
Q:お稽古が始まって、いかがですか?稽古はジャージとスニーカーとか?
「忙しいです。(歌舞伎の稽古は浴衣を着用するが)スーパー歌舞伎の稽古は、ジャージとスニーカーでやるという伝統なんです。もう三幕まで作りましたから、もう通せる状態で、これから練って行きます。蔵さん(佐々木蔵之介)たちは未知なるものへの挑戦で戸惑ってるでしょうね。顔(舞台メイク)も、初日から自分でできるように、これから稽古していただきます。顔の稽古って、実はとても大事なんです」
Q:そんな中で猿之助さんは?
「ボクは今、芝居全体を作る方に没頭しています。そこが一番苦労している点です。常に選びとっていく。ペンディング(保留)っていうことができないので、その場で決断して行かなきゃならない。あんまり悩んでグジグジっていうのは嫌いですね。ボク、その場ですぐにセリフを書いてくださいってお願いするんですが、前川さんは今はまだそのスピードに慣れてなくて。でも、みなさん歌舞伎のこの大変さを知っちゃったら、今後とても楽になると思いますよ」
Q:現代劇から参加する3名への期待は?
「歌舞伎役者にないものを持ってらっしゃる方々だから、それがうまく出て歌舞伎と融合したらいいなと思っています。ただ、それが舞台に乗ったらどういう効果を生むかは、やってみないとわからない。未知の領域が多いので、そのあたりが自分でも楽しみですね。蔵さんは、歌舞伎の演技ができると思ったんです。『技術』がある。セリフを歌うことができる。歌舞伎は音楽劇だから、リズミカルに言わなきゃいけないんですが、それができる、と感じたんです。歌舞伎のリズムの中に放り込んでも、全然違和感ないと思った。蔵之介さんと芝居をやることも含めて、ボクがやりたいことを実現させるのには、『スーパー歌舞伎II』という形が一番いいかな、と思ったんです。福士さんは、これまで『亀治郎の会』にも出てるし、大丈夫。浅野さんは『腕』の固まりのような人。素晴らしいです。福士さんと浅野さんは二人で狂言回しみたいな役なんです。客席と舞台をつないでくれる一番の存在が浅野さん。現代劇で鍛えられた部分を生かしていただきます。笑いも浅野さん担当です。3枚目のキャラクターも入ってます。稽古場で淡々とこなしてらっしゃるのを見て、あぁすごいなこの方はと思いました。でも、とにかく楽しんでもらえれば、と思ってます。蔵之介さん、浅野さん、福士さんが、歌舞伎に出てよかったと思ってもらえるような作品にしたいな」
Q:今回、特に意識している点は?
「前川さんの書くのは現代語ですからね。それをなるべく尊重します。一部言い回しは歌舞伎っぽくしますけど、あくまで前川さんの現代劇の持つ言い回し、おもしろさを残してやります。歌舞伎は単純明快、どんな人たちにもわかり、納得できるのには、単純であること、明快であること。水戸黄門ですよ、どこを切っても同じっていう。しかし、その中に深い真理を入れて下さいって前川さんにお願いしたから、非常に難しいと思いますよ。わかりやすい単純な言葉で深いことを言う。前川さんのセリフの中にも、そういうところが何箇所か出てきます。メッセージ性は、各々が読み解いてください。前川さんの脚本の良さは、それぞれの立場でそれぞれのメッセージを受け取れるところにもありますから。主人公に仏師という設定は前川さんらしいですね。仏師だから地味な話だろうという先入観を、今回は打ち破っていかないといけないわけです」
※【その2】に続く
【取材・文=ドルフィンコミュニケーション】