※【その1】の続き
_ニューヨーク公演に続いて4月にはアモイ、5月にはベルリンでの公演も決定していますね。
「そうなんです。今回のニューヨーク公演では英語浪曲も行ったのですが、メインは英語字幕付きの日本語浪曲だったんです。中国ではアモイ大学の日本語学科の学生さんの前で公演させていただくので、ここでは日本語で行う予定で、ドイツのベルリンでは『英語はいい』と言われたので、日本語浪曲にドイツ語の字幕を付けて行う予定です。
_日本においては“古典”といわれる芸能文化ですが、海外の方にとってはすごく新鮮なエンタテインメントとして受け取ってもらえるのかも知れないですよね。音楽なのか芝居なのか、そのどちらも含んでいて。
「そうかも知れないですね。浪曲は譜面もなくて三味線と浪曲師で成り立っているもので、よくジャズのセッションに例えられるんですよ。そういう部分が海外でも『面白いね』って思ってもらえる要素だったようで。若い世代の子たちが浪曲に興味を持つきっかけというのも、そういった『音楽的要素』も大きいみたいなんです。音楽が好きな方がおっしゃるには『浪曲にはいろんな音楽の要素が入っている』ということらしいんです。ラップっぽい節があったりしますしね(笑)。若い世代の方達は浪曲に対する先入観も前知識もまったく持たない方が多かったりするので、本当に『新しいエンタテインメント』として楽しんでくださる方も多いですね。
_古典や伝統と言われると、どこか気後れしてしまうようなところがあったりするのですが、恵子さんは浪曲という伝統芸能をもって、すごく新しい提案をしてくださいますよね。それまで浪曲に馴染みのなかった人でも「気楽に楽しみに行っていいんだ」って、敷居の高さを感じずに招き入れてくださるのが嬉しいなと。
「私は自分の実力で一歩一歩積み重ねていくということが好きなんですが、時間をかけて作りあげられていくものにすごく憧れをもっていて、そういう生き方をしたいと強く感じていました。経験を積んでいくなかで、自分自身が魅了された『浪曲』というものをなるべくたくさんの人達に知ってもらいたいという気持ちが出てきたのですが『まず10年は基本的な力を身に付けるために修行する』という想いがありましたから、技術を自分のものにすることに集中してきました。そういった中で、自分でもカフェやバーで小さな公演を開いてみたり、『春野恵子の浪曲ROCK YOU!』というレクチャー付きの浪曲ライブを開催してみたり、浪曲という伝統をさらに深く理解したいと思ったら、今までとは少し違ったやり方を実践してみると、また新しい目線で見る事が出来るんですよね。そうすることで『浪曲の会まで足を運ぶには気後れする』という方にも気楽に聴いていただけるきっかけになれたりもしますので。10年間で基礎の土台を築かせていただけたからこそ、こうしていろんなチャレンジに向かわせて頂けていると感じています」
_10年目を経て、浪曲師としての自身の在り方は見えていらっしゃいますか?
「それはなかなか言葉では難しいですね(笑)。浪曲師として10年の経験というのは、本当にまだまだ浅くて。まず『声』を作るというのが大事なんですが、ようやく自分の声が安定してきてはいますがまだまだ修行の途中ですので。現状では本当に基礎の基礎が身に付いてきたかなという状態なのですが、浪曲の修行は本当に時間を要しますし、時間をかけたからといって一人前の浪曲師になれるとも限らない。自分自身の認識としては『浪曲と出会ってから自分の本当の人生が始まった』と思っていて、浪曲を与えてもらったことで私は生かされていると感じているんです。浪曲に出会って師匠に弟子入りさせていただいて、今こうして浪曲師として舞台に立てているということが本当に有り難くて幸せなことですので、やはりそこに対しての恩返しがしたいですね。私自身は、浪曲という伝統が脈々と続いているなかでのほんのひとコマなのですが、この素晴らしい伝統を次世代に繋げていくために、自分が出来ることをすべてやりたいと思っています。今はやりたいことが多すぎて、本当に時間が24時間じゃ足りないくらいなんですけども(笑)」
_すごく楽しみです!ではまだ浪曲を知らないという方々へメッセージをいただけますか?
「本当に気軽に、一人芝居でも見に来る感じで来て頂けたら嬉しいですね。演劇や音楽やミュージカルに興味のある方にもきっと楽しんでいただけると思いますので………知らないと損しますよ〜(笑)!」
【取材・文=三好千夏】