2014年4/10、「スケキヨナイト~懐かしの角川映画を語ります!~」がトークライブハウス「ロフトプラスワン・ウエスト」(大阪市中央区)で開催。これは作家の中川右介さんの著書「角川映画 1976-1986 日本を変えた10年」出版記念のトークイベント。作家・中川右介さんと関西ウォーカー連載「銀幕魂」でもおなじみの映画評論家・平野秀朗さん、松竹芸能の芸人で映画に詳しいシンデレラエキスプレス 渡辺裕薫さん(日本アカデミー賞協会員)が出演、関西ウォーカー統括編集長の玉置泰紀を司会に、懐かしの角川映画についてトーク。まずは前編をお届け。
ゲストの角川映画ベスト5は?
玉置 中川さんの単行本「角川映画~」が発売になり、2か月経ちましたがかなり売れていて、色々な雑誌や新聞の書評で取り上げられています。5月には井口 昇監督の映画「ライヴ」が公開されるなど、角川映画は今も作られていて、スピリットは生きていますが、何故1976~86年の10年間に絞られたのですか。
中川 角川映画の始まりは1976年の「犬神家の一族」。本として、一番短くした場合、角川春樹が一番作りたかった1980年の「復活の日」までの4年間。長くして角川春樹の時代が終わった93年の「REX 恐竜物語」なんだけど、そうすると、その前後の事件やお家騒動なども書かなきゃいけなくなってページ数が増える。
私は、10周年記念の「キャバレー」「彼のオートバイ、彼女の島」までは劇場に見に行っていたのですが、大林宣彦監督に取材した時、そこで角川映画のひとつの時代が終わったと断言されていたので、ここを区切りにしようと考えたわけです。雑誌「バラエティ」誌もここで休刊になるし。
玉置 なるほど。では、ゲストの皆さんに好きな角川映画ベスト5を伺っていきます。
平野 5位「魔界転生」、4位「野獣死すべし」、3位「犬神家の一族」。ここまでは自分の思い出深いものや歴史的に重要な作品です。悩みに悩んで決めた上位2作は2位「蒲田行進曲」、1位「戦国自衛隊」。これは中川さんの本にもある、角川映画が一番熱かった時の作品。「蒲田行進曲」は僕の観た日本映画10位に入る名作で、大好きな映画。角川らしさはないが、東映と松竹というライバル会社のコラボという、角川映画にしかできなかった面もある。そこに深作欣二監督による化学反応が起きて「ヤス、上がってこい」という名台詞が生まれた。角川映画だからこそ生まれた名作。
中川 「蒲田行進曲」は松坂慶子が一番美しく、最高の演技を見せています。結局、深作欣二以外の監督ではダメなんだよね。「青春の門」で深作と初めて組んだ時、密室で演技指導をされ、開眼してからずっと一緒。「里見八犬伝」でも出番はないのに、最初だけ声の出演をしています。
平野 第1位は「戦国自衛隊」。友情、愛、絆、裏切り、信頼、男たちの心といったすべてが詰まっています。終わり方含めてすべてがベスト。この中で戦う道を選ぶ者や叛乱する者など、人間の進む道が色々分かれていくことも、子供心に悟った。人生を教えてもらった映画です。
渡辺 僕は5位「白昼の死角」、4位「里見八犬伝」。夏木マリが色っぽかった。3位「セーラー服と機関銃」。この時、中学生でしたが、男女の息づかいを感じてドキドキしました。機関銃を撃つシーンでは本当に薬師丸ひろ子の頬が切れて、血が流れた。そしてテーマソング。タイトルは「セーラー服と機関銃」でも、歌詞には全く出てこない。覚えているのがこの年の紅白歌合戦。
中川 そう。桜田淳子が「セーラー服と機関銃」を歌った。
渡辺 薬師丸ひろ子さんのヒット曲なのに「なんで?」と思いました。
中川 僕は「なぜ桜田淳子にこの歌を歌わせるんだ」という怒りが勝ってました(笑)。
渡辺 2位「時をかける少女」。これは映像の魔術師です。理科室でラベンダー探しました。
中川 ラベンダーもないけど、僕の通っていた学校に原田知世はいない(笑)。
渡辺 いませんいません(笑)。そして1位「野生の証明」。まず、主題歌の「戦士の休息」が好き。そして主演の高倉健、往年のスターが角川映画に出たという点。薬師丸ひろ子のデビュー作でもあります。野性味のある目力、原石を感じさせる印象でした。僕の中でこの1位は揺るぎないものがあります。
平野 「ネバー・ギブアップ」というキャッチコピーも鮮烈に残ってますね。
渡辺 当時の角川映画はキャッチコピーがとても印象的。「人間の証明」の「母さん、僕の麦わら帽子…」みたいなのもそうですね。
玉置 僕は角川に入って20年余りですが、1976~86年は映画館にもよく見に行ってました。5位は「復活の日」。小松左京の原作を読んでそのスケールに圧倒されましたが、これを映画化するというのが信じられませんでした。おそらくアウトブレイクものの一番最初かな。
中川 原作が書かれたのは東京オリンピックのころ。小松左京の先見性はスゴイ。ラストは核の問題とウイルスの脅威が一緒になっていて、ちょっと皮肉な結果でね。
玉置 潜水艦はチリの海軍から借りた。日本映画ですが、字幕でロバート・ボーンやオリビア・ハッセーなど、そうそうたる役者が出ていました。
平野 角川春樹が映画を志した最初の目標が、この作品の映画化だったのも重要なポイントです。
玉置 4位「犬神家の一族」、3位は「Wの悲劇」、2位は「時をかける少女」、1位は「セーラー服と機関銃」。相米慎二は「飛んだカップル」で新進気鋭の監督として話題になって、それを見た角川春樹が非常に衝撃を受けて「クソ、オレも」と考えて作ったのが「セーラー服と機関銃」。そこから「ションベンライダー」や「魚影の群れ」の流れが奇跡のような傑作の連続でした。
平野 いわゆるプログラムピクチャー、2本立て興業が一時廃れ、角川が大作1本主義で日本映画の流れを変えた後、古きよき日本映画の伝統みたいなプログラムピクチャーを復活させたきっかけというのも、「セーラー服と機関銃」の存在意義です。ちなみに「蒲田行進曲」の同時上映が「この子の七つのお祝いに」という作品でした。
渡辺 あー、あれ怖かったわー。
平野 何が怖いって、岩下志麻がセーラー服で出てくるんですよ(笑)。回想シーンでセーラー服で出てくるシーンだけが印象に残っているんです。でもそのあとの「蒲田行進曲」が素晴らしく「この子の七つのお祝いに」は記憶に残らない(笑)。
中川 順番を逆に見た人は悲惨(笑)。
渡辺 セーラー服のシーンだけ、夫の篠田正浩監督が撮ったんじゃ(笑)。
玉置 今日、ちょっと衣装持って帰ろうか、みたいな(笑)。※中編に続く