高校生でのデビュー以降、等身大の歌詞と柔らかく伸びやかな歌唱力で多くのリスナーの心をとらえ続けるシンガーソングライター井手綾香。2ndアルバム「ワタシプラス」をリリースした彼女を直撃した!
_今回のアルバムは作詞作曲からヴィジュアルに至るまで、ご自身の中にある世界観がかなり投影することができた作品のようですね。
井手:そうなんです。作詞作曲はデビューの頃からずっと続けていることなんですけど、今回はそれに加えてアレンジや楽器もいろいろ演奏してみたり。ミックスやマスタリングに至るまで、自分の中にある世界観を作り上げて行く作業にすべて関わりました。前回のアルバム「atelier」は、高校を卒業して間もない頃だったんですけど、その時はまだ学生だったということもあって、制作に関わる時間がほとんど持てなくて深いところまでは入っていけなかったんです。今回は学校も無事に卒業しまして、時間もゆっくり出来ました(笑)。2年ぶりのアルバムでもあるので、納得いくまで時間をかけて作りあげることが出来ました。
_今回のアルバムのイメージというのは、どのように創られてきたんでしょうか?
井手:私はたぶんこだわりが強い性分であるという自覚があるので(笑)、前回のアルバムから今回のアルバムまで「どうしようかな?」「こうしようかな?」というアイデアの構想や想像はすごくしてましたね。音のイメージとしては、生楽器や70年代の洋楽を小さな頃から聴いてきたこともあって、そういった雰囲気が自分でもすごくしっくりくる音色なんですよね。なので、そういった音の雰囲気を目指していたところは大きかったです。出来るだけ生の音を入れたいとか。曲の世界観というのは、本当にざっくりとですけど「こういう事を歌いたい」という気分で出来上がったりするので。例えば「明日になれば」という曲に関しては、眠る前にベッドの中で考えている時の気持ちを曲にしました。眠りにつく前の夢と現実の狭間で揺れている感じと言うのを表現したいなって思って。リバーブを深くかけてみたりとか、いろいろ挑戦してみましたね。
_今回では特に、歌詞のなかに唐突に出てくるひとつひとつの言葉の“生々しさ”もまた新鮮でした。
井手:私、実はあまり作詞が得意でなくて、作詞ではいつも悩んでいるんですよ(笑)。自分の中での棲み分けで「初期・井手綾香」と「今期・井手綾香」が存在しているのですが、「初期・井手綾香」は最初のアルバムからその後に出たシングルまでで、アルバムにも入っている「235」という曲から「今期・井手綾香」に切り替わったんです(笑)。初期と今期では一体何が違うのか?というと、まず髪をバッサリ切ったタイミングがそこなんですよ。「235」という曲に込めている想いというのが髪を切る理由になったことなんですけど、髪が長かった時の「初期・井手綾香」は…何ていうか、ずっと「明るいこと」だけを歌ってきたような気がします。歌詞の中に「痛々しさ」というのはあまり感じられなくて。自分自身も未来や夢に向かってポジティブに進んでいこうという気持ちだったので、自然とそういう言葉が出て来ていたのは確かだったんですけど、その一方で、明るくて前向きな曲ばかりを書いて歌い続けていたら、今度は「生々しさ」とか「痛々しさ」みたいなものも歌いたいという気持ちになってきたんです。だけど、そういう言葉を歌っている自分というのをすぐには自分でイメージ出来なくて。それからずっと歌詞を書くことに行き詰まって、「何を書いたらいいのかわからない」という状況がけっこう続いていたんです。これじゃダメだなと思って、リセットしようという想いで髪を切るに至ったんです。その当時の想いがこの「235」という曲に込められていて。メンタリティだけで言うと、今回のアルバムの中でふたつに別れている感じですね(笑)。髪を切ってからはギターも弾くようになったし、今まで無かったような新しいことにチャレンジできるようになって。髪を切ることで新しいエネルギーが沸いて来たっていうか。歌詞も今まで書くことがなかった…例えば痛々しい失恋ソングだったりとか。以前の自分ではイメージできなかったことも、今の自分なら歌えるって思えるようになりました。今でも歌詞には時間をかけていますけど、今までだったら言葉に出来なかった感情を歌詞にして歌に乗せることが楽しくて「これだ!」ってはまった時の嬉しさが最高です(笑)。
※【その2】に続く
【取材・文=三好千夏】