※【その1】の続き
Q:最後の「紀州道成寺(きしゅうどうじょうじ)」は?
物語性のある作品です。安珍への恋の執念から蛇になってしまう清姫を描いた、安珍清姫の「道成寺伝説」の後日譚。これはお能の「道成寺」を踏まえたシブい作品ですが、見ごたえがあります。公演の最後に、どっしりとした、ちゃんとじっくりと腰を据えて見ていただけるような演目を持って来たつもりです。ボクたちの錦秋公演を最初に観ていただいた方は10年経ってる、10年観続けてくださった方もいるわけじゃないですか。そこで、こういう演目ができたら、ファンの方とともに成長できてるんじゃないかなっていう、気持ちがすごく強くありましたし。踊りでは、裏切られた女の情念や怨念を表現できたらいいなと思います。最後に蛇の化身になってしまうという、ストーリー的にはわかりやすい作品ですが、難しい踊りです。
Q:いろんな舞踊が楽しめるように演目を選ばれた?
舞踊の魅力がギュッと詰まってます。歌舞伎には、埋もれちゃいけない、いい踊りというのがたくさんあるんですよね。踊られないと、その作品がかわいそうでしょ。その作品に魂を、ボクたちが吹き込むというか…。楽しくてわかりやすくてっていうのはいっぱいありますけれども、敢えて今回は、いい踊りに目を向けて、こういう踊りもあるんですよって。だから冒険は冒険ですよね。わかりやすくするのも、もちろん絶対大切なんですけど、でも、こういうことをやっていかないと、全部が簡単な方、簡単な方に行ってしまう。世の中には難しいものってのはあるんですよ、絶対。それを観ないで終わるか、観るか。こっちがビビって、いろんな難しいことを封印してしまったら、その作品は埋もれてしまう。今生きてる若いボクたちが、その作品に命を吹き込むことによって、難しいものでも、少し観た、何かこれ、わかんないけど、こういうの素敵だなっていうのを感じてくれると思うんですね。もとは絶対いいものなので、それをいかにボクたちが体現できるかですけれども。お客様に何か感じてもらえたらうれしいです。「あぁ~、いいものを観たなぁ」って思っていただけたら。今回はこういう気持ちもあるので、初めての方がどう思われるか楽しみです。
Q:大阪のお客さんはどうですか?
ボク、大阪の人、好きですよ、おもしろいから(笑)。全部食べるものに置き換えるよね、大阪の人って(笑)。サイコーですよ! 前に「藤娘」をやった時にね、花道から引っ込むときに、花道横のおばちゃんが「あぁ~、きれいやわぁ、何食べてはるんやろ」って(笑)。いやぁ~、食べ物やないやろっていう(笑)。普通だったら、お肌のケアどういうふうにしてるんだろうって言うところを、何食べてるの、何食べりゃキレイになる?っていう。大阪はそうなんだって。そういうの、すごくおもしろいです。それから、よくしゃべる、お客さんが。「こっち向いて~!」とか「手ェ振って~!」とか。「芸談」の最中でも、松竹座で花道でやってるときにも。でも、それって、すっごいうれしいですよ、役者としては。まさか手を振りかえすことはできないけど(笑)。構えて観られてるより、わぁわぁ言ってもらってる方が、楽しんでもらってるっていうのが明らかにわかるじゃないですか。だからウチの父親はね、大阪好きだったんだと思うんです。
Q:大阪に来たとき、必ず行くところは?
中華料理の店に行きます。宗衛門町に、おっちゃん一人でやってるカウンターの中華があるんです。昨日も行きました。美味しいし、おっちゃんが好きだから。大阪城でやった平成中村座の時ぐらいからだったと思う。
Q:NY公演は?
楽しみですよ。1回目は「夏祭浪花鑑」、2回目は「法界坊」。串田監督がテイストをちょっと斬新にしてみたりすることがあったけど、今回は古典のまんまですから。この話自体、奇抜な早替わりなんですけど、演出家もいないし、そのまま持っていくので。これは今まで初めてのことなので、ニューヨークの人たちがどういう反応をするか。例えば早替わりなんて、もう知ってるでしょ、だってショーまであるんだから。そこで、いかにこのアナログな感じを受け入れてくれるか。ただただ、役者が走るっていう(笑)。役者が体を張るという早替わりですからね。ま、早替わりだけじゃなくて見どころはいっぱいあるけど。
Q:すごく忙しいんじゃないですか?
5月に九州と四国で「新緑特別公演」をやって、終わったらコクーン歌舞伎の稽古があって、コクーンで6月末までやって、7月の頭からNYに行って、帰ってきたら、またコクーン歌舞伎を松本でやるんですよ。8月は歌舞伎座で、9月が錦秋特別公演。だからもう、5月からは怒涛のように。関西来るまでに、いっぱいやってから来ます(笑)。
【取材・文=ドルフィン・コミュニケーション】