19世紀のフランスを代表する天才詩人、アルチュール・ランボーとポール・ヴェルレーヌ。2人の破滅的な愛と放浪の日々を描いた映画「太陽と月に背いて」(監督:アニエスカ・ホランド、ランボー:レオナルド・ディカプリオ)から20年。クリストファー・ハンプトンの衝撃作『皆既食~Total Eclipse~』を、「最高のキャストがそろった時に上演する」と温めて来た蜷川幸雄が、満を持して演出する。
若く、才気あふれる自由奔放なランボーに、本作が初舞台となる岡田将生。ランボーに心奪われ、破滅へと向かうヴェルレーヌには、緩急自在の名優・生瀬勝久。また、ヴェルレーヌの妻マチルドに中越典子のほか、辻萬長、加茂さくら、立石涼子ら実力派が揃う。
このたび、生瀬勝久がキャンペーンで来阪。生瀬の蜷川作品への参加は過去3回あるが、物語の中心を担う役柄は初めてであり、また、蜷川組出演作は、関西では今回が初見参となる。インタビューは当意即妙。稽古を目前に控えた時期、作品への意気込みは、いつも以上に熱く感じられた。
Q:映画はご覧になりましたか?
見ないです。終わってから見ようと思って。映画って、その作品を誰かが解釈して、映像化してるわけでしょ。ヘンなフィルター入れたくないから、見ない。ディカプリオの美しさ? いやいやいや! この戯曲は、やっぱり言葉の力ですよ。
Q:会話劇なんですか?
すごいです。会話と言うよりも、同じ場面で2人はいるんですけど、ランボーにしても、ヴェルレーヌにしても、相手に何かを伝える時に独白に近いような2ページぐらいの長ゼリフがある。それを成立させるって大変なことだと思うんですね。岡田君は黙ってる場面で、2ページぐらいボク一人でずっとしゃべってるんです。その間客席でみんながどう過ごすかっていうことを考えると、ボクは責任を持ってそのクリストファー・ハンプトンのセリフを良質消化して、それを聞くことの楽しみっていうのを具現化しなければならない。だってそうしないと、ボクの存在意義がなくなるじゃないですか。
Q:岡田さんは美しいと思いますけど、生瀬さんも魅力的ですやん。
いやいや、もちろん岡田君の美しさっていうのは万人が認めることでしょうけど、ボクはビジュアルに関しては全然自信ないです。でもやっぱりこの作品に関わるってことは、ご覧になっていただいて、どういうふうに感じられるかわからないですけど、胸が苦しくなるようなセリフを、そのセリフの持つ力を楽しく、また魅力的に、みんなに味わっていただきたい。そうじゃないといけないっていうような気がするんですよね。
Q:岡田さん、初舞台で大変ですね。
大変だと思います。まぁでも、黙って立ってても美しいしね。ただ、すごいセリフもあるし。で、難しいところですね。岡田君っていうのは、蜷川さんのイメージの中で非常にインスピレーションが沸いたんじゃないですか。ボクのヴェルレーヌに関しては、どこまでか、ね? いや、ボクはすべてを疑ってますから、自分の評価に関しては、はい(笑)。
Q:今回の出演は?
「これ読んでみて。で、やるかどうか決めてね」って言われて。読まずに決めた。
Q:生瀬さんは“職業役者”、だからですね!
そうです(笑)。
Q:で、読んでみて、どうでした?
大変だな、と(笑)。もうほんとに単純に、大変やな、と。例えば、自分が客席にいたときに、これだけ難しい言葉を舞台上で役者が説得力を持って話すってのは、大変な技術と、大変な集中力と、大変なスキルがいるなって思った。ただ単に長い落語聞かされるって、つまんないじゃないですか。で、下げがわかってるんですよ。もちろん落語っていうのは、その中におもしろい話が組み込まれてるんですけど…。今回はある程度、脚色はされてるんでしょうけど、ドキュメンタリーじゃないですか。普通にランボーとヴェルレーヌの話を舞台上でやられてもねぇ。このクリストファー・ハンプトンが、なぜこれを題材にしたのか。単純に、男が男を好きになって、そういうハラハラドキドキの芝居を作りたかったわけではないと思うんですよね。お客さんに何か聞かせたい、感じてほしいという意図があるわけじゃないですか。それをいかに表現するのかっていうのは、責任重大ですね。
Q:戯曲の力、ですか?
そう思いますね、きっと。こういう2人の関係って、やっぱり刺激的だし、危険だと思うんです。で、エキセントリックでコメディアンの私に…笑いをみなさんに期待されるだろう役者に、これだけのヴェルレーヌの芝居をさせるって、ボクはおもしろいと思います。よくぞ選んでいただいたなって。ランボーに振り回される、20歳後半から50何歳までのヴェルレーヌという人物をどういうふうに演じ切るのか。自分で楽しみですね。
Q:男同士で、たった2年の間に燃えるような恋をする。
恋…う~ん、惹かれあう。ん?惹かれあってんのか? どっちかっていうと弄ばれたような気もするけど。どうなんだろ、ランボーはヴェルレーヌに対して。ランボーに関しては、悪魔に近いですよね。ヴェルレーヌが彼に惹かれたっていうのは何となく腑に落ちるんですよ。美しさであったり、才能であったり。愛に値するようなそぶりをするわけじゃないですか。だけど、ランボーがヴェルレーヌに対して何を感じたのかって言うのは、よくわからない。結婚している、もちろん才能はあるんだけど、10才年上の酒飲みのDV野郎ですよ。奥さんはもちろん、ランボーにも暴力振るうし。
※【その2】に続く
【取材・文=ドルフィン・コミュニケーション】