「マッサン」子孫・竹鶴孝太郎とピーター・バラカンの華麗なる対談!本物を知り尽くした2人【前編】

東京ウォーカー(全国版)

現在放送中のNHK連続テレビ小説「マッサン」。主人公、亀山雅春のモデルとなったニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝を祖父に持つ竹鶴孝太郎が「ウイスキーとダンディズム 祖父・竹鶴政孝の美意識と暮らし方」(角川oneテーマ21)を出版した。それを記念して、旧友の紹介で知り合い意気投合したというブロードキャスター、ピーター・バラカンとの対談が実現。同年代の2人が、“本物”を知ることの大切さや自分らしく生きることについて語り合った。

<本物を知れば、おのずと偽物が分かる>

バラカン「今日はお話しできるのを楽しみにしていました。よろしくお願いします」

竹鶴「こちらこそよろしくお願いします。先日、真空管ラジオのショップでご一緒して以来ですね」

バラカン「そうですね。あの時に聴いた60年前のバング&オルフセンの真空管ラジオの音は素晴らしかったですね。『ウイスキーとダンディズム』を拝読しました。とても興味深い内容で、僕は竹鶴さんのお祖母さんのリタさんと同じイギリス出身だから、テーブルマナーに厳しかった話とか、『分かる分かる』とうなずくところもたくさんありました」

竹鶴「テーブルマナーは祖母に幼い頃からしつけられたので、箸よりも先にナイフとフォークの使い方を覚えたくらいです。祖父は食べ物にうるさくて、料理は出来立て、食材は新鮮であることにこだわっていました」

バラカン「本の中で、お祖父さんが『本物を知れば、おのずと偽物が分かるようになる』とおっしゃったという話もありましたね。とてもおもしろいと思いました。新鮮でおいしい食べ物を子どもの時から食べることが大切だと」

竹鶴「我が家は野菜や果物を作っていたので、いつももぎたてを食べていました。祖父は、旬の食材を新鮮な状態で食べることが一番の贅沢だから、果物や野菜の香り、みずみずしさ、食感をちゃんと覚えておくように、幼い私によく言ったものです。『味覚は先天的なものではなく経験で養われる』というのが祖父の考えでしたから、ずいぶん高級な料理もいろいろ食べさせてもらいました。この経験は私の財産になっています」

バラカン「そんな環境で育ってこられたのは、とても幸せですね。『子どもだから分からないだろう』ではなくて、子供の頃から本物に触れさせてあげるのは親の役目なのかもしれません」

竹鶴「バラカンさんもこれまでたくさんの音楽に触れて、今のスタイルを築いてこられましたよね。音楽のルーツはあるんですか?」

バラカン「子供時代、家でかかっていたレコードになるのかな。母が何気なく聞いていたそのレコードは、ルイ・アームストロング、レイ・チャールズ、ビリー・ホリデイなど、ジャズでもありブルーズでもある、それこそ本物のミュージシャンばかりでした。その後、僕が11、12歳の頃にビートルズが登場してすぐにのめり込み、当時のビート・グループを熱狂的に聴いていたのですが、その中でも自分が良いと思う音楽と、そうでない音楽とはっきり分かれたんですね。小学生で音楽をそれだけ選り好みするというのは、幼い頃からすごい人たちの曲がいつも耳に入ってきていて、それが一つの尺度になっていたからかも知れない、と今思っています」

竹鶴「やっぱり子供の頃の経験がその人の礎を作りますね。そういえばこの間、実家の蔵でレコードを何枚か見つけまして、その一つがアル・ジョルソン(20世紀初頭に活躍したアメリカのエンターテイナー)だったんです。アル・ジョルソンはご存じですよね」

バラカン「もちろん。顔を黒塗りして黒人のマネをしてジャズを歌っていた白人歌手ですね」

竹鶴「アル・ジョルソンは本物のジャズシンガーだと思いますか?」

バラカン「難しい質問ですね。僕の感覚では、アル・ジョルソンはジャズシンガーではないけれど、異論を唱える人もいるはずです。エンターテイナーとして優れていた彼は人気を博し、評価も高かったようです。アル・ジョルソンに限らず、ソウルミュージックを歌う白人はたくさんいて、それが本物かどうかは質や内容によると思います。マネごとで終わる可能性もあるけれど、その人が持っているソウルが本物であれば、それは本物の歌になる」

竹鶴「そうですね。なんでアル・ジョルソンの話をしたかというと、『日本のウイスキーは本物か?』という話につながるんじゃないかと思ったからです」

バラカン「それはどういう意味でしょう?」

竹鶴「私がニッカウヰスキーにいた頃、フランスのワイナリーへワインを買い付けに行き、そこのオーナーに『日本人はマネがうまいから、日本のウイスキーはきっとおいしいんだろうな』と皮肉を言われたことがあるんです。その時初めて、世界の人から見たら日本のウイスキーは、東洋人が白人顔をして作った酒という解釈になるかもしれないと思い至りまして」

バラカン「なるほど。さっきの音楽の話と同じで、日本のウイスキーだから偽物なんてことはなく、一つ一つの質を見るべきですよね。ただ、日本のウイスキーが世界に認められるには、日本ならではの特別な個性が必要かもしれません」

竹鶴「たしかに個性は必要です。あとは、ディストリビューション(流通)力というか、広告宣伝や発信能力も非常に大切でしょうね。音楽もウイスキーも一緒で、日本から世界に伝えていくのはハードルが高いですから。先日、ある人に、『メーカーは関係なく、日本のウイスキー全体を世界に広めることに取り組んだら?』と言われたんですよ」

バラカン「日本のウイスキーの良さをどう見せていくか、ということですね。どうです?やろうと思いますか?」

竹鶴「おもしろい課題ですよね。他のウイスキーにない付加価値をグローバルに伝える仕掛けができれば、可能性はあると思います」

【後編に続く、東京ウォーカー(構成=熊坂麻美)】

※2014年11月25日に行われた対談です

注目情報