「マッサン」子孫・竹鶴孝太郎とピーター・バラカンの華麗なる対談!本物を知り尽くした2人【後編】

東京ウォーカー(全国版)

現在放送中のNHK連続テレビ小説「マッサン」。主人公、亀山雅春のモデルとなったニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝を祖父に持つ竹鶴孝太郎が「ウイスキーとダンディズム 祖父・竹鶴政孝の美意識と暮らし方」(角川oneテーマ21)を出版した。それを記念して、旧友の紹介で知り合い意気投合したというブロードキャスター、ピーター・バラカンとの対談が実現。同年代の2人が、“本物”を知ることの大切さや自分らしく生きることについて語り合った。

<自分らしさへの近道とは>

バラカン「本のタイトルが『ウイスキーとダンディズム』ですけれど、竹鶴さんはお祖父さんのどんなところをダンディだと思われますか?」

竹鶴「強い信念を持って誰にも媚びず、前向きかつ楽天的に生きたところですかね。祖父は生き方にも服装にも『自分流のスタイル』がありました」

バラカン「おしゃれにも相当なこだわりがあった方ですよね」

竹鶴「そうですね。祖父はハの字型で両端をはね上げたカイゼル髭がトレードマークで、夏は白い麻のスーツにコンビネーションの靴とパナマ帽、冬はフラノなどの生地で仕立てたスーツにボルサリーノのソフト帽をかぶっていました。身につける物は靴下や下着まで納得のいくものを選んでいて、ブランドよりも質を重視していましたね」

バラカン「素材やデザインが上質なものですね」

竹鶴「はい。祖父はよく、上質な麻やカシミヤ、アンゴラなどの生地を私に触らせて、質感の違いを確かめさせました。だから私は洋服を買う時、生地をよく触って素材の質感をチェックするのがクセになっているんです」

バラカン「食べ物だけでなく、さまざまな場面で本物とは何かを教えてくれたのですね。今はファストファッションの時代ですし、若い人はアンゴラとカシミヤ、コットンと麻の違いが分からない人も多いんじゃないかな。それを選ぶか選ばないかは別にして『違いを知っている』ことに大きな意味がある気がします」

竹鶴「バラカンさんは、これまで会ったミュージシャンの中でダンディだと思った人はいますか?」

バラカン「実は『ダンディ』とか『ダンディズム』って、イギリス人はめったに使わない言葉なんです。日本語だと『粋』という言葉に置き換えられるのかな。そういう意味では、マイルズ(マイルス)・デイヴィスですね。彼は周りの意見に振り回されず、自分がやるべきだと感じたことをとことん追求した人。音楽はもちろんのこと、その生き方を含めてかっこいい人だと思います」

竹鶴「祖父は私に『ディグニティー(dignity)を持て』とよく言っていたんです。威厳とか尊厳と訳される単語ですね。どんな高級品を身につけても、その人自身にディグニティーがないとおしゃれとは言えないと」

バラカン「見た目だけでなく、その人の価値観や生き方が重要だということですね。確たる自分があると、それが服装や立ち居振舞いにも現れて、自分のスタイルが自然と出来上がりますからね」

竹鶴「そうですね。ディグニティーとまでは言わなくても『自分なりの基準』を持つことは、これから活躍していく若い人にもとても大切ですよね」

バラカン「本当にそう思います。例えば、僕は職業柄『どんな音楽がおすすめですか?』と聞かれる機会が多いのですが、好きな音楽を聴けばいいと毎回言うんです。音楽の『良い悪い』は主観なので、評論家がすすめる音楽や流行りの曲が自分に響かなければそれまでだし、世間が良いと言うものを自分が良く思わなくても不安になる必要はないんです。人の言うことに左右されないで、自分が良いと思うものや自分の判断に自信を持つこと。それが、音楽に限らず生き方においても大事だと思います」

竹鶴「お酒も同じですね。好きなものを飲んだらいいと思いますよ。ワインは特に、うんちくを語って、あれが良い悪いと評論する人が多いけど、自分がおいしいと思うお酒を楽しく飲んだらいい。有名な銘柄が自分にとっておいしいお酒だとは限りませんからね」

バラカン「お祖父さんの名言『ラベルにだまされるな』ですね(笑)。今日はありがとうございました。私も自分らしく悔いのない生き方をしなければと、改めて思いました。今度ぜひ一緒に飲みに行きましょう。あ、竹鶴さんはお酒を飲まれないんでしたっけ」

竹鶴「そうなんですよ。子供の頃、ウイスキー、ワイン、ブランデーなどの匂いを祖父にさんざん嗅がされてきたのもあって(笑)、今は飲んでいないんです。だから食事がいいですね。今日は楽しかったです。ありがとうございました」

【東京ウォーカー(構成=熊坂麻美)】

※2014年11月25日に行われた対談です

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