2013年の初演で5万人もの観客を動員した「真田十勇士」。大河のように大きくうねる傾斜舞台の上で、ダイナミックに繰り広げられる戦いのシーン、骨太で魅力的な人間ドラマ…何よりも熱く大きなエネルギーが、全編を通して怒涛のようにほとばしる。脚本は、劇団☆新感線の中島かずきだ。多くの再演を望む声に押され、真田幸村が討ち死にした大坂・夏の陣から400年という今年、早くも再登場となった。十勇士を率い、自らの信念を貫いて戦いに臨んだ豊臣方の武将・真田幸村に、再び上川隆也が挑む。
初めて会った時は30代だったシャイな青年は、その後着実にキャリアを積み、大河ドラマの主役を経て、実力派ベテラン俳優に。が、中年のオジサンとは呼べない爽やかな好青年の雰囲気を保ったまま。また、作品に対峙する真摯な姿勢は20年前とまったく変わらない。そして取材には、沈黙を恐れず言葉を選びながら丁寧に対応。きちんと伝えたいという思いを強く感じる。撮影での会話。「どんな風に撮ってほしいですか?」「ナチュラルに(笑)」。というわけで、ナチュラルにカッコ良い写真となった。
Q:時代劇は普通のお芝居を演じるのとは違う?
上川:演じる心持ちは大して変わらないんですよ、実は。ですが、時代背景や扮装や所作、言葉遣いも含めて、今の自分たちが日ごろ接してるような、身近にある材料を持ち込むことができない。それだけに。。。
ボクは、誰かになり代わったり、自分から距離感のある存在になるということが、演じることのおもしろさのひとつじゃないかなと思ってる部分があるんです。そういう意味ではとても“演じがい”を感じるんですね。日頃口にしていないような、いわゆる時代劇言葉と言われるような台詞も、なるべく自然に口に出すことで、演じる人というものをより身近に感じて表現していこうと思いますし。ですから時代劇は、現代劇にはない創意工夫が持ち込めるものとして、とてもボクは好きです。
Q:真田幸村はどんな人だと?
上川:とにかく、とても強い欲求。それは、世に己の名を、生きた爪痕、足跡みたいなものを残したい、知らしめたいということがとても強くある男ですね。
なぜかというと、九度山というところに長い間蟄居を強要されてしまったがゆえに、世に出るのが遅くなった。ようやくその機会を得たからこそ、その大坂冬の陣から夏の陣に至る、彼がほんとに表舞台に出ることのできた短い時間の中で、何かをしようとしていたんだと。それがまず根底にあって。でも、一方で、ずうっと戦場にいた男ではないわけですから、大胆でありながら、青いというか。そういったまったく逆の大きなエネルギー、真逆の性質みたいなものが同時にあって、それがヤジロベエみたいに行ったり来たりしながら前に突き進んでいるような、ちょっと危なっかしさも感じられるような男なのかなぁというふうに思い描いてました。
Q:十勇士を率いるのは、すごいパワーですよね。
上川:そうですね。それはきっと彼の思い、願望、野望みたいなエネルギーがそうさせたのと同時に、今言ったような青さ、熱さと同時にある若さというか、そういった危なっかしさとも言っていいものが、家臣たちにとってはサポートしがいのあるものになった…。それで、十勇士そろって初めてひとつの完全体となるような存在として、非常に有機的なつながりを持って集まることができたんじゃないかなというふうに思うんですよね。
Q:演じていてもパワーが必要なのでは?
上川:命を受け止めるために、こうであらなければいけない。イコールで結ばれる式で釣り合っていなければ図式として成立しない。そういうことは、正直考えてなくて。中島マジックもあるんでしょうけれど、そこにある熱量が、そういった過不足をあっと言う間に補完してしまう。役者も焚き付けられて、熱に浮かされるように演じてるようなところもあると思うんですけど、それに疑問を感じないエネルギーみたいなものが、脚本にもともとあるような気がするんですよね。
Q:観てる人間も一緒にドライブ感がある感じです。
上川:それが中島脚本は既にしつらえていて、そこに乗ってしまったら、あとはこう、うねっていく中に身をゆだねられるというか。そんな感覚がありますね。
Q:中島脚本らしい、舞台のド真ん中で見得を切る心境は?
上川:理屈なんかふっとばせって感じなんですよ(笑)。そこになにがしかの裏付け、例えば心情の裏打ちとかがないわけではないんですけど、でもそれを補って余りあるエネルギーやモチベーションの高さが、もうそこにある。道理を蹴っ飛ばしても、そこに貫かれる思いみたいなものがあるというか…。
Q:それが、時代に逆流しても義を貫く幸村の心とイコールになる。
上川:そうでしょうね。多分、理屈でいったら時代に即していくのが賢いんでしょうし。例えば選択肢として、それこそ徳川の軍門に下って行くっていうことも選び得たでしょうけど。そこを蹴っ飛ばしてしまえる思い切りの良さと、妙に一体化してるんですよね(笑)。
Q:上川さん的に、その幸村の思いは?
上川:ボク自身には、及びもつかない考え方なんですけどね。だからこそ、演じていて成り代わってて、だから自分では到底吐けないようなセリフを、なんの臆面もなく吐き出すことの根源的な快感のようなものはあります。
※【その2】に続く
【取材・文=ドルフィン・コミュニケーション】