“改善”を続けるショコラ!青木定治の探究心に迫る

東京ウォーカー(全国版)

1月21日、世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」が東京で幕を開けた。その後、2月15日(日)まで全国6都市で開催され、世界トップクラスのショコラティエたちが、日本中をチョコレート一色に染め上げる。その中でも特に注目を集める、気鋭のショコラティエにインタビューを実施!業界を牽引する彼らが胸に抱く、ショコラ作りの流儀を探る。

<青木定治(パティスリー・サダハル・アオキ・パリ)>

青木定治のショコラには“KAIZEN(改善)”という言葉が似合う。基本は変えずに細部を進化させていき、数年後には大きく変わっている…TOYOTAから生まれたと言われるこの言葉は、日本人の考え方をよく表している。それを地でいく青木定治は、すぐに分かる“KAIZEN(改善)”を続ける。バージョンアップを重ねるショコラ。食べなければきっと後悔するはずだ。

――新作のユズのショコラが素晴らしいですね。素材の良さを感じました。

「実は9月に高知県の馬路村に足を運んで、生産者たちと直接話をしました。馬路村はユズの産地として有名で、パリのシェフにも評価されています。僕も馬路村のユズのパウダーを使っていましたし、先方もそれをご存知だったので、すぐに打ち解けました」

――産地の人に何かリクエストをしたのですか?

「どのように活用するのかを理解していただくために、実際にお菓子を作り『そのためにこうしてほしい』という風にリクエストしました。(愛知県三河地方の)抹茶もオーダーしてから挽いたフレッシュなものをパリに送っていただいています。2014年のC.C.C(クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ)でアワードを受賞した抹茶のショコラもその抹茶を使っています。パリで入手した抹茶を使用したショコラやケーキも多く販売されていますが、僕は他店のものをノックアウトできるくらいの味が完成してから商品化しているので、店頭に出た時点で、すでに他とは味が違います」

――他にも産地へ行きましたか?

「岐阜県の八百津町まで栗を見に行きました。そこで知ったほうじ茶やハチミツも焼き菓子などに使っています。イチジクのショコラも通常はトルコ産を使いますが、今回は福岡県八女市のイチジクを使っています」

――和素材がそろったのは偶然ですか?

「元々、自分が出会った良い素材をショコラにする方針ですが、日本で出会えたことと、日本限定のアソートボックスを作ることが重なり、それなら和素材がいいと思ったのです。日本で選んだ素材をパリに持ち帰り、日本のお客さまのために作ることは今回の大事なポイントになりました」

――青木さんのショコラは素材とショコラのバランスが絶妙ですよね。

「よく『口に入れたあとに鼻腔に残るような香りを狙う』なんていう話を耳にしますが、私は食べた時に説明が要らない感じが好きです。『これなんだったの?』というショコラは嫌なのです。だから、素材の味をしっかり感じられるようなバランスを常に考えています」

――見た目の美しさもよく評判になりますが。

「デザインは確かに大切ですが、そこもバランス。残念なことに、最近多いのが『いかに美しく作るか』にこだわってしまっているショコラです。僕は逆に言えば形は全部同じでも、味がしっかりしていれば良い、と思ってしまいます」

――抹茶のショコラもますますおいしくなっていると感じました。

「そもそも、僕は種類を増やすためにお菓子を作ってはいません。そうした意味ではほとんど新作を作っていないんです。味をさらに良くしていくことが大事だと思っています。自動車メーカーと同じです。たとえばカローラという自動車がありますが、60年代に作られた初期モデルから、2代目、3代目とその名にふさわしい進化を遂げていきますよね?カローラと名前を付けたとき、開発者やメーカーはその名にいろいろな思いを込めているではないでしょうか。ならば『自分が進化していることを表現する場が商品である』と思うのです。場合によっては青木定治の名より、代表作の1つである『バンブー』のほうが有名だったり、『ボボン・マキアージュ』(日本名は『ボンボン・ショコラ』)といえばアオキ、という感じになっています。その方が大事なのです。抹茶にしても、カラフルで多彩な味わいのボンボンにしても、今とても流行っていますよね。“お菓子の魅力で流行っていく”ということも大事だと思っています」

――流行らせようとしたわけではないのに、ですね?

「例えば日本では新商品を出す時に、テレビや雑誌に出るためにモノ作りをしてしまいがちです。パリでそれをやってしまったらダメです。やっぱり“お客さま”なのです。お客さまを理解し、食べてほしい人が明確だと、自分のアピールより、そちらが大事になっていきます。自分も若い時には目立つモノを狙っていたと思います。ですが、今では皆が自分に求めていることも分かるようになってきていますし、肩に力が入らずにできている感覚があります。素晴らしい食材に出会えなければ新しい味や商品も出てこないですし…」

――本格的にボンボン・ショコラを扱うようになって6年。見えてきた世界も違ってきたのではないですか?

「まだまだ発展途中です。結局、自分のテクスチャーが分かってないとダメですよね。とろけるようなショコラが良いとか、ガシッとしたクーベルチュールが良いとか。その点で言えばミッシェル・ショーダンさんは天才的です。パティシエが作る硬いムースやガナッシュとは違うんです。ジャン=シャルル・ロシューさんなどもそうですが、しっかり考えて作っている人のショコラは何を狙っているのか味わって食べないと失礼です。ケーキならひと切れくらいは召し上がっていただけますが、ショコラは人によっては1粒だけですよね。そこで自分の名前や商品イメージをどう残すかが重要です。どこのカカオ豆を使って云々…といって繊細な香りを出したショコラは意外と忘れられちゃうと思っています。それより、1粒にどれだけサービス精神を込められるか。僕は、ショコラは自分の名刺代わりだと思っていますから。パリでは、その1粒がどの人(お客さん)の口に入るか分かりません。ウチのスタッフもよく理解していて、ちょっと出来の悪い形のショコラがあると『はじき過ぎだろう』と僕が言うくらいボツにしてしまいます(笑)」

【東京ウォーカー/記事提供=サロン・デュ・ショコラ オフィシャル・ムック2015】

※記事の内容は「サロン・デュ・ショコラ オフィシャル・ムック2015」から一部抜粋、再構成したものです

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