関西ウォーカーの誌面で紹介する演劇作品以外にも、「観てほしい」「観るべき!」という公演がたくさんあります。ここでは、私、演劇ライター・はーこがレポートやインタビューを通じて演劇の魅力を伝えます!
劇団イキウメって、知ってますか?
作・演出の前川知大(まえかわともひろ 1974年生まれ、新潟県出身)が主宰し、2003年に結成。オカルティックな題材を好んで取り上げ、日常と隣り合わせに現れる異界を描く。大阪には2007年に「散歩する侵略者」で初登場。宇宙人がそばにいる、という非日常を今の日常に折込み、人間の感情の深淵まで浮き彫りにした作品は、あまりにおもしろく衝撃的だった。
「科学で立証できないものを、フィクションで料理して舞台に乗せる」。この類を見ない作品世界で着実に人気上昇。小劇場での上演を重ねるうち、前川の作劇と劇団員の成長に目が離せなくなった。2012年には「太陽」で、第63回読売文学賞戯曲・シナリオ賞、第19回読売演劇大賞最優秀演出家賞(グランプリ)などを受賞。劇団イキウメの実力レベルは格段にアップ、演劇界で異彩を放ちながら活動を続けている。
その劇団イキウメが、2010年に初演した舞台「プランクトンの踊り場」。この作品は、作・演出の前川が「見慣れたものや現象を、奇怪でユニークな視点で捉えた」と評され、鶴屋南北戯曲賞、芸術選奨新人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞している。
今回は作品をブラッシュアップし「聖地X(エックス)」に改題、完成版として再演。タイトルのX(エックス)は、未知数のX。未知なる聖地。そこが神聖な場所となるかどうかは、訪れる人の想像力次第…。物語の舞台は、奇妙な力が宿る土地。ドッペルゲンガー(自分とそっくりの姿をした分身)の出現から、その土地の秘密に迫っていくというSF推理劇だ。
キャンペーンで来阪した前川さんは、この作品を「不思議な場所ってあるよね、不思議な力ってあるよね、っていう話。普通の日常生活のなかで、それに遭遇してしまった人たちの物語です」と話す。
ストーリーを詳しく言うとおもしろくない。でも、例えば…夜中に目をつぶってシャンプーしていて、何かの気配を感じる時って、ないですか?狭いユニットバスの中で、私のほかにもう一人いるような気がする…。「ひとり?」心の中でそういった瞬間、気配は人の形になる。「幽霊?」そういった瞬間、それは幽霊になる…。
ま、そういう芝居です。って、どんな芝居や!と思うでしょうが、そういう芝居です。
前川さんは、うさんくさいこと、不思議なことを、舞台上でリアリティを持って見せるのが、非常にうまい。宇宙人も妖怪も「今の生活の中に共存していたらどうなるかと考えて、より生活に近く、信じられるような描き方で」描く。この作品には、お客さん全員がハッと息を飲む瞬間がある。「物語の設定に、登場人物とお客さんが一緒になって驚く、手品みたいな瞬間があるのが、この芝居のおもしろさ。ものすごくアナログなことが、ミラクルなものに感じられてしまう。演劇の醍醐味ですね」。前川さんいわく「山に大きな要(かなめ)石があって、それをずらすと魔界につながる穴がある。そんなイメージでこの作品を作りました」。
で、本作の主人公の女性の名前が“要(かなめ)”。伊勢佳世さんが演じます。また、その要のお兄ちゃん役を演じた安井順平がサイコー! ハマリ役だと思いました。が、彼はその後、「カタルシツ 地下室の手記」という作品で一人芝居を演じ、より一層のハマリ役を得ました。
初演から5年たち、イキウメの名前は演劇ファンに広く知られ始めました。まだ演劇を見たことがない、という方にもオススメです。ほんと、メッチャおもしろいから!特に、スピ系、パワスポ系の話が好きな人は、間違いなく、ハマります。保証します!
前売りチケットの発売は、4月4日(土)~。お見逃しなく!!
【取材・文=演劇ライター・はーこ】