山下敦弘が映画「味園ユニバース」を語る(前編)

関西ウォーカー

大阪を舞台に、歌うこと以外すべての記憶を失った男が自分を見つけだそうとする姿を描いた映画「味園ユニバース」。関ジャニ∞の渋谷すばるが初めて単独主演を務めたことでも話題となった本作への思いを監督の山下敦弘に聞いた。聞き手を務めたのはABCラジオで放送中の「よなよな~なにわ筋カルチャーBOYZ」のメインパーソナリティで、映画「味園ユニバース」にオフィシャルライターとして参加したライター、インタビュアーの鈴木淳史と、同番組でアシスタントを務めるライター、編集者の原 偉大。

鈴木淳史(以下、鈴):映画の冒頭からラストまで渋谷すばるさんの表情の変化が素晴らしかったですね

山下敦弘(以下、山):特にラストはいい表情でしたね。本人もあまり意識してなかったと言ってましたけど、あれが素直に、終わったあとに出た渋谷君の顔なんだろうなと

原 偉大(以下、原):映画の冒頭の表情とのギャップがたまらんなぁと思いました

山:最初のシーンはアイドルの顔とは思えない表情なので(笑)。そりゃ刑務所から出てくるよなって顔してますからね

原:そこから記憶がなくなったときの表情の変化もスゴいですよね。

山:やっぱり表現力はスゴいですよね。あの時は集中して渋谷君が演じる主人公の茂雄のことを考えながら、すべてを出し切ったと思うんですけど、彼自身も「あんまり覚えてない」って言ってましたもんね。

鈴:そうですね

山:たぶん、本当に集中力と潜在的な表現力でやってたんだろうなと思うんですよね。変な計算はしてなかったと思うんですよ

鈴:現場では出演シーンの撮影が終われば、ずっと椅子に座って台本を読んでる姿が印象的でした

山:それかブルースハープの練習してましたね

鈴:二階堂さんとは対象的な感じで

山:彼女は赤犬のメンバーと仲良くしてましたからね

鈴:ずっと赤犬のメンバーのお腹触ってましたよ(笑)

原:茂雄という役を作り上げるなかで、監督から渋谷さんに注文したことはありますか?

山:彼には大まかに“記憶がなくなって、すべての記憶が消えたんだけど、歌しか残らなくなった男ということで、クズで救いようのない男なんだけど、問題山積みなんだけど、

そいつが歌う映画なんだよね”ということをとにかく言っていたような気がしますね

鈴:映画を一本、見るように進めたと聞いたんですが…

山:ショーン・ペンの「インディアン・ランナー」ですね。クランク・インの前に、カメラマンが“今回の映画の主人公は『インディアン・ランナー』に出てくるヴィゴ・モーテンセンみたいですね”って言って、僕も「なるほど!」と思って、渋谷君に見てもらうように伝えたんです。すぐに見てくれたみたいで、渋谷君から、「わかりました」と返事がきて

原:へ~

山:『インディアン・ランナー』は、幸せになりかけると自分から壊しにかかる男の話だったから、そういう感覚なんじゃないかなと。幸せになることが怖いというか、そういう男の話だったんですよね

鈴:監督は学生時代は大阪で生活されていたと思うんですけど、改めて「味園ユニバース」で“大阪”を撮ることについてどう感じてました?

山:大阪から離れて10年たったことで余裕ができたというか。20代の前半に住んでいたときは、新世界のど真ん中で、派遣バイトしながらギリギリの生活の中で映画を作って。当時は大阪のマイナスな面ばかり見てたというか。「おっちゃんが多いなぁ」とか、「夏、しょんべん臭えなぁ」とか…

原:それ新世界だけちゃいます?(笑)

山:住んでいた当時は“ここから抜け出したい”という思いがあったんですけど、大阪という街の居心地の良さや、そこで映画を作ることの面白さも確かにあったんです。でも周りの仲間たちが東京にいって、自分が残っちゃったから“東京へ行こう”ということになって。それで10年たって、久しぶりに大阪に戻ったら、街との距離ができたんですよ。そしたら、やっぱり面白いなぁと。例えば、大阪って自転車の二人乗りが多いじゃないですか(笑)。あと、このご時世に灰皿も多いし。“あぁ、大阪こんなんだった”と思い出しながら、“大阪あるある”が妙に面白くて

鈴:撮影してるときも、結構通行人のおっちゃん、おばちゃんがアクが強くて…

山:なんなんでしょうね、あれ(笑)

原:撮影中の人止めとか大変そうですね

山:そう。俺見ないようにしてましたもん(笑)。“うわぁ揉めてる…”とか思いながら、気にしちゃうと演出ができないから。遠くから“めっちゃ怒られてるじゃん”と思いながら見てました(笑)

鈴:僕は基本、人止めしてる人の側にいましたけど、ほんまに大変そうでしたよ。スタッフの人がめっちゃしゃべりかけられてるし。

山:基本、チャリなんですよね。撮影の都合で人を止めてるところを行きたがるから。止まんないですよ。だから結構映り込んでるんですよね。本物の住人が(笑)

(後編へ続く)

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